降り注ぐ不幸
その日の夜。しとしととした細かい雨が降る静かな闇を、ドローレスの部屋から漏れる明かりが照らしていた。
すでに消灯時間を過ぎてはいたが、ドローレスはまだ机に向かって針仕事をしていた。食堂にあるカーテンが古くなって所々破れていたので、直しておくように言われたのだ。
「はあ……」
やっと一区切りついたところで、ドローレスはため息をついた。まだこの後も、学校で使う教本の書き写しが残っている。今夜も徹夜をする事になりそうだった。
だが、明日には明日の仕事があるのだ。まずは聖堂の窓ふきと、書庫の本の整理。今日頼まれたが手が回らなかった、宿舎の雨どいの修繕もしなければならない。大工道具なんて触った事もないのに、上手くできるだろうか。
それに、ドローレスは高い所が苦手だった。高所から下を見ると足が竦むし、眩暈のようなものも覚えてしまうのだ。それなのにそんな所の修理作業をするなんて、今から考えるだけで胃がざわざわするような落ち着かない気持ちになってくる。
(ああ……何でこんな事になってしまったのかしら)
翌日の事を考えて一気に疲労が押し寄せてきたドローレスは、全ての気力を使い果たしたかのようにベッドに身を投げ出した。
皆が皆、ドローレスがクレアの部屋にウサギの死体を入れた犯人だと思っている。一体どこにそんな証拠があるというのか。誰もがただ疑わしいというだけで、ドローレスが犯人だと決めつけているのだ。正直に言って腹が立つ。
(もしかしたら……クレアが皆にある事ない事吹き込んでいるのかしら)
自分は可愛そうな被害者ですとか、犯人はドローレスさんで間違いありませんとか。そうだ、そうに違いない。突如湧いて来た妄想に、ドローレスの顔が怒りで歪んだ。
(やっぱり目障りな女だわ。さっさとどこかへ行ってくれればいいのに……)
だが、あの女はきっと、ネルソンを自分のものにするまでどこにも行くつもりはないのだろう。そう考えると余計に苛立ちが募る。ネルソンは、クレアなんかになびいたりしないとドローレスは信じているが、それでも、自分の恋人が他の女に言い寄られている光景を想像するのは、いい気分ではなかった。
ネルソンが他の女に奪われる心配をしなければならなくなり、修道者たちからは白い目で見られ、クレアが来てからというもの、ドローレスは散々な目に遭っていた。何が『愛と祝福をもたらす青藍の聖女様』だろう。自分に降りかかっているのは、不幸以外の何物でもないではないか。
(それともこれは、私が青嵐の鬼女だからなの……?)
鬼女は周囲に災いを振りまく。その災いが、自分にも注がれているだけなのだろうか。まさかクレアが来たのも、自分の不幸を呼ぶ性質のためなのでは……。
疲れているせいなのか、ドローレスの想像はどんどん悲惨な方向へ向かって行った。まるで誰かに自業自得だと責められているかのような、居た堪れない気持ちにさえなってくる。
ドローレスが暗い底なし沼に入ってしまったような絶望に浸っていると、ドアにノックの音がした。ドローレスは反射的にベッドから跳ね起きる。




