事件の犯人は……
その事件は、あっという間に大修道院内に広まっていった。
ウサギが勝手にクレアの部屋に入って、そこで命を落としてしまったとは考えにくい。この事件は、誰かがクレアの部屋に意図的にウサギの死体を持ち込んだ事によって引き起こされたと見るのが妥当だろう――。そんな見解が主だった。
修道者たちの個室には、鍵はついていない。それはクレアの部屋も例外ではなかった。だから、入ろうと思えば、誰でも彼女の部屋に侵入する事は可能だ。そうなってくると、この大修道院に出入りしている全ての者が容疑者となる。
だが、そんな見方をしている者は、ほとんどいなかった。
「やっぱり、あの事件の犯人って、鬼女様なのかしらねえ」
畑の作物に水をやっていた背の高い修道女のソニアが、同じく水やり中のケイに尋ねる。
「決まってるじゃない」
ケイは当たり前の事を聞くなとばかりに団子鼻を鳴らした。
「他に誰がいるっていうのよ」
ドローレスがクレアを厭っている事、すでにこの大修道院の中で知らぬ者はいなかった。そのため、この事件の容疑者として真っ先に名前が挙がったのはドローレスだった。
「でも、いくら嫌いな相手だからって、部屋に動物の死体を投げ込んだりするかしら? それに鬼女様は、確かに気が強そうに見えるけれど、それでも罪のないウサギをわざわざ殺すような方には思えないんだけど……」
「あんた、相変わらず甘いのねえ」
ケイが嘆息する。
「あの鬼女が犯人で間違いないわ。あいつが聖女様を困らせてやろうと、今回の事件を仕組んだのよ」
「でもあのウサギ、男子修道院で飼われていたものだったんでしょう?」
事件後、大修道院内の全ての家畜小屋のウサギの数を数えた事で、あの死体の出所が分かったのだ。男子修道院に設置されているある小屋の中から、ウサギが一匹、いなくなっていたのである。
「鬼女様が犯人なら、わざわざ男子修道院までウサギを捕まえに行った事になるわ。女子修道院にだってウサギはいるのに、どうしてそんな事をしたの?」
「そりゃあ、自分が怪しまれないためよ」
ケイは自信満々に言う。
「死んだウサギが男子修道院で飼われていたものなら、女性である自分は怪しまれないと思ったんでしょうよ。浅はかな人」
それに、とケイは続ける。
「あの事件があった日、鬼女の姿が男子修道院の敷地で目撃されているのよ。これは動かぬ証拠だわ」
「鬼女様は、恋人に会いに行ったって主張しているって聞いたけれど……」
「そんなの、嘘に決まってるわ」
ケイは忌々しそうに吐き捨てた。
「肝心の恋人の方は、その日は鬼女に会っていないって言ってるんでしょう? ……それにしても、鬼女のくせに生意気よねえ。あんなに男前の恋人がいるなんて」
男性関係を厳しく制限されている修道女にとって、あちこちで恋人と睦みあっているドローレスの行動は目に毒だった。しかもその相手は眉目秀麗の青年とくるのだから、やっかみたくなるのも仕方ないだろう。
ケイのように嫉妬する者があちこちにいる事をソニアは知っていた。ドローレスが美人である事も、彼女たちの敵愾心を煽る事に繋がってしまっている。
だが、指摘したところで逆上されるのが目に見えているので、ソニアは相方の言葉を聞き流す事にした。
「鬼女様は、その日は特に約束をしてから会いに行った訳じゃないから、行き違いになっただけって話しているわよ」
「あんた、どうやっても鬼女を庇いたいのねえ」
ケイが呆れたように言った。
「でも、無駄よ、無駄。皆が、鬼女が犯人だって思っているもの。……ほら」
ケイは、向こうの広場の方に何かを見つけて、嘲笑うような顔になった。




