勧誘
「クレア!」
クレアの傲慢な思考に触れたネルソンが辟易していると、どこからか、晴れやかな声が聞こえてきた。
「えっ……?」
声のした方に目を遣ったクレアが、意外そうな顔をする。四人の男が、こちらへとやって来るところだった。
(……噂をすれば影、か)
ネルソンは彼らの事を知っていた。四人の男たちが、たちまちの内にクレアを囲む。
「探しましたよ、クレア」
「私を置いて行くなんて、ひどいじゃないか」
「こんな寂れた辺境にいても、やはりクレア様は太陽のように輝いている……」
「早く俺の訓練に付き合ってくれよ!」
四人の男たちは、口々に好き勝手な事を話し出した。クレアは目を白黒させている。
「ルースさん、セシルさん、カルヴァンさんにロビンさんまで……。一体どうしたんですか?」
「もちろん、君を追いかけてきたんですよ」
最初にクレアに声を掛けた青年――ルースが当然とばかりに言った。彼は、このレイファーニュ王国の王子だ。
「お前とは離れない。聖女の力、最後まで見届けさせてもらうと誓ったから」
先程クレアが話題にしていた人物、セシルが片眼鏡の奥の鋭い瞳を光らせる。
「あなたのいない王都は、まるで花の咲かない荒野のようでしたよ」
王国一の放蕩者の異名をとるカルヴァンが、いつものように大袈裟な身振り手振りで言った。
「ま、そんな訳だから、よろしくな」
新米騎士のロビンが豪快に笑った。
「あら、まあ……」
クレアはまさかの事態に困惑を隠せていなかった。
ルース、セシル、カルヴァン、ロビン。この者たちは皆、クレアの攻略対象だ。ハーレムエンドで幕を閉じたかに思えたクレアの物語だが、そのハーレムの構成員たちは、どうやら愛しのクレアの不在に耐えられなかったらしい。そのため、こうして大修道院まで押しかけてきたようだ。
「やあ。君が新しくクレア様のハーレムの一員になる男性だね」
また面倒事が増えそうだとネルソンがげんなりしていると、カルヴァンが芝居がかった仕草でネルソンの前に踊り出てきた。そのまま、ネルソンのつむじから靴の先までゆっくりと品定めするような視線で辿っていく。
「中々の色男だ」
カルヴァンは満足げに頷いた。
「君はこのハーレムの一員に相応しいよ。一同、歓迎しようではないか」
「か、歓迎……?」
思いもよらなかった展開に、ネルソンは顔を引きつらせた。
「僕は、クレアのハーレムのメンバーに加わるつもりなんて、全くないんだが……」
「もちろん、我々も最初はそう思っていましたよ」
ルースが訳知り顔で言った。
「我々は当初、たった一人がクレアの愛を得る事が正しいと考えていました。そして、その幸運な一人になろうと、躍起になったものです」
「だがある日、私たちは大切な事に気が付いた」
セシルが続きを引き取る。
「そう! クレア様の愛は偉大! 山より大きく、海より深い! 我々全員が享受しても、それは余りある程なのだ! 逆に言えば、ただ一人がその愛を受ける事など、恐れ多い!」
カルヴァンの口調に熱が籠もる。
「だから、あんたも何にも気にしないでいいって訳だ」
ロビンが話を締めくくった。
どうやら彼らは、ネルソンがクレアの愛情を独り占めしたいと考えていると勘違いしているらしい。とんでもない話だ。ネルソンとしては、クレアなんて大人しく王都に帰って、彼女のために絶賛建築中の聖女の大聖堂でハーレム生活を謳歌してもらっても全然構わないと感じているというのに。




