この世界の中心
「まったく……どうしてそんなに僕が良いんだ。君を好いてくれる人なら、他にたくさんいるだろう」
今回のクレアは、攻略対象全員の好感度を最高の水準まで上げる事によって成し遂げられる、ハーレムエンドを迎えていたので、このゲームの四人のヒーローは皆、クレアに執心しているはずだ。自分を愛してくれる者がそんなにいるのに、それでもまだ別の男の尻を追いかけようとするなんて、ヒルダの言う通り、クレアは本当に強欲だ。
「だって、私とネルソンさんが結ばれれば、素敵な事が起きるんですよ?」
クレアは無邪気に言った。
「聖女の力は、愛される事によって強まっていくんですって。セシルさんがそう言っていました」
セシルとはクレアの攻略対象の一人で、青藍の聖女の歴史について研究している人物だ。
「でも、それは誰からの愛でもいい訳ではないそうです。ある特別な人たちからの愛情……それを受ける事によって、聖女は強くなれるんですよ」
「……僕も、その内の一人という訳か」
ある特別な人たち――攻略対象という事だろう。「その通りです!」とクレアは嬉しそうな声を出す。
「ネルソンさん、あなたは選ばれた側の人間なんですよ。それって、とっても素敵な事だし、同時に、すごく責任重大だと思いませんか?」
「責任?」
「選ばれた側の人間は、選ばれなかった側の人たちを幸せにしてあげないといけないっていう事です」
クレアは当然とばかりに言い切った。
「ですからネルソンさん、私と一緒に、選ばれし者の責務を果たしましょう? 聖女の力で皆を幸せにしてあげるんです」
「……その『皆』の中には、ドローレスさんは入っていない訳だな」
ネルソンは寒々とした心地で言った。
「君は、人の恋人を横取りするのが良い事だと思っているのか? 強い聖女の力を得るためには、何をしてもいいと?」
皆を幸せにしたいというクレアの想いは清らかなように聞こえるが、それは、誰かの犠牲の上に成り立つ行為だ。その『誰か』がドローレスであるという事に、ネルソンは憤りを感じていた。
「横取りなんて、そんなつもりはありません!」
クレアは少し驚いたようだった。
「私は、いつかきっとドローレスさんも全部分かってくれる日が来ると思っていますよ。皆の幸福のために、ドローレスさんが自分からネルソンさんを私に渡してくれる瞬間が、きっと訪れます。そして、ネルソンさんも私を愛してくれるようになる時だって、必ず来るんです」
「君は……本当に……」
ネルソンは絶句してしまった。もはや傲慢を通り越した、いっそ清々しい程の自己中心的な思考だ。
クレアがこんな考え方をするようになったのは、彼女が『主人公』だからなのだろうか。確かに物語は主人公を軸として回っていくが、中心に立つ人物の考え方を押し付けられる方は、たまったものではない。
――大切なもののためには、他を犠牲にする事だってやってしまえる……そういう存在です。
ネルソンは、モリスの言葉を思い出していた。クレアの『大切なもの』とは、『周囲に幸せをもたらす事』なのだろう。そのためなら、他人の恋人を掠め取るくらい、クレアにとっては何でもないのだ。そしてさらに恐ろしい事に、それが悪行だなんて思いもしていないのである。




