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神が与えたもの

「あなたがお好きなのは、『青嵐の鬼女』ではなく、『ドローレス・グレイハート』でしょう。そして、嫌っているのは『クレア・ホートン』であって、『青藍の聖女』ではないはずです」

 モリスはゆっくりとかぶりを振った。


「誰を憎むも愛するも、それは個人の自由だという事もまた事実です。人間は神とは違うのですから、結局のところ、平等な愛など持ちえないのですよ。大切なもののためには、他を犠牲にする事だってやってしまえる……そういう存在なのです」

「それは……聖職者らしからぬ発言ですね」


 神の教えを厳格に守っていそうなモリスからそういった言葉が聞けるとは、ネルソンは思いもしていなかった。それとも、熱心な宗教家ではないネルソン相手だからこそ、神が示すのとは違う道を歩んでもいいと言ってくれたのだろうか。


「そのような考え方をして、神はあなたをお叱りになりませんか?」

「さて、どうでしょう」


 モリスは肩を竦めたが、ふと、真剣な顔になる。

 

「イングラムさん、あなたはご存知でしょうか。我々は作られし存在。そして、我々が信奉する神もまた……」


 モリスの目はどこか遠いところを……まるで画面の外にある、こことは別の世界を見ているようだった。


「これでは、神は至上の存在と言えるのでしょうか。同じく作られしものである我々と何が違うのか、わたくしには、時折分からなくなるのです」


 モリスもまた、このゲーム、『あいの聖女に祝福を』のモブキャラであったようだ。それと同時に聖職者としての側面も付与されている彼女は、だからこそ、このような悩みも持ってしまうのだろう。


「とは言え、それでもわたくしは神を信じますが」


 ネルソンが不自然な程に黙りこくってしまったのに気が付いたのか、我に返ったようにモリスが言った。


「さあ、イングラムさん。バケツの水を替えてきなさい。もう随分真っ黒です。これでは、聖堂の床をかえって汚してしまいます」

 

 モリスは、少し喋りすぎたと思っているようだった。ネルソンの事を追い立てるように手をひらひらとさせた。


 ネルソンはバケツの取っ手を掴んで、大人しく聖堂から出ようとする。その背に、モリスが一言だけ言葉を掛けた。


「神が我々に与えたのは、禍福を呼び寄せる力を持つ存在なのか、それともただの『青藍の聖女』と『青嵐の鬼女』という概念なのか、それは、わたくしにも分からない事です」


 外に出てバケツの中の汚れた水を捨てながら、ネルソンはその言葉が、先ほど自分がモリスに尋ねた、「クレアには、何の力もないのではないか?」という疑問の答えだという事に、やっとのように気が付いた。

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