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迎えたエンディング

 ドローレス・グレイハートは、乙女ゲーム、『あいの聖女に祝福を』に登場する悪役である。


 このゲームの舞台であるレイファーニュ王国では、二百年に一度、髪と目が藍色の娘――『青藍せいらんの聖女』と呼ばれる乙女が生まれてくる。人々に愛と祝福をもたらすとされる存在だ。


 だが、『青藍の聖女』は、それ単体では存在しえなかった。聖女が生まれるのと同時に、もう一人の稀有けうなる少女も、この世に生を受ける事となるのだ。


 その者は、『青嵐の鬼女』と呼ばれる。聖女と同じように藍色の髪と目の持ち主だが、その性質は真逆で、不幸と争いをばら撒くとされていた。


 二人の乙女は特別な力の持ち主の証として、同じ髪と目の色をしているので、見た目からでは、どちらが福をもたらし、どちらが災いをもたらすのか判断が付かなかった。それに、幼小の折は、彼女たちの類まれなる性質はまだ眠った状態で、表には出て来ないと言われていたのである。


 幸福を呼ぶ聖女は国を挙げて歓迎する必要があるが、もし鬼女ならば、災いをまき散らさないように、辺境へ追いやらねばならない。そのためにも、二人の正体を是が非でも見極める事が肝心だ。


 そこで王国では、伝統的にある方法を用いてきた。乙女が聖女であるならば、その周囲には愛が満ち溢れるはず。その特性を利用して、二人の娘が十七歳で成人してからの一年間、彼女たちが獲得した愛によって、その本質を探ろうとしていたのだ。


 すなわち、聖女であれば、相手よりも多くの愛を獲得できるだろうという理屈である。乙女ゲーム的な見方をすれば、攻略対象との愛をより深めた方の勝ちという訳だ。


 そして今回、その伝説の乙女として生を受けたのは、クレア・ホートンという少女と、ドローレスだった。クレアはこの乙女ゲームの主人公である。競争の間、クレアは何人もいるヒーローを攻略していき、ドローレスは婚約者のネルソンとの仲を深める事に徹した。


 両者は激しく争った。そして、聖女だと認められた幸運な娘はクレアだった。


 争いを制したクレアは、聖女の証明である青いイヤリングを右耳につけ、王都での幸せな暮らしが約束された。


 一方のドローレスは『青嵐の鬼女』だと見なされ、その証として左耳に藍色のイヤリングをつけられた。それだけでなく、辺境へと追いやられる事も決まったのだ。処刑されずにすんだのは、下手に『鬼女』を害すると、呪いを受けてしまうと信じられているからである。


 しかし、不幸を寄せ付ける『鬼女』が人々に受け入れられるはずもない。ドローレスは、これから辺境にある修道院で、一人ぼっちで生きる運命が待っていた。


 しかし、そんな事はゲームのプレイヤーは知った事ではない。クレアを操って、彼女に感情移入していた者たちの目からこの結末を見れば、ヒーロー攻略を度々邪魔してくる悪役を押しのけて、主人公が見事に掴んだハッピーエンドに他ならないのだから。

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