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施し

「聖女様、旬の野菜のグラッセです」

「こちらはローストチキンでございます。ベリーソースをかけてお召し上がりください」

「食後は果物をお召し上がりになりますか? それとも、お紅茶をお入れしましょうか?」

「他に召し上がりたいものがあれば、何なりと……」


 クレアのところに次々と料理が運ばれてきていた。ドローレスがよく知る肉料理や魚料理だけでなく、物珍しい見た目の、恐らくはこの地方独自の郷土料理と思われるものもある。


 到底一人分には見えないその豪華絢爛な美食の数々を運ぶのは、どうやらこの修道院の者たちではないようだ。近くの町にある料理店の店員か何かだろうか。給仕をするその姿は、どこか慣れを感じさせるものであった。


 きっと、彼らもここの料理は最悪だと思ったのだろう。そして、そんなものを愛する聖女様に食べさせる訳にはいかないと、こうして腕を振るう事にしたに違いない。


 クレアの前に、蜂蜜がたっぷりとかけられたふわふわのケーキが置かれた。ドローレスは思わず喉を上下させる。甘いものはドローレスの好物だった。


 窓から入ってくる日の光が照らす蜂蜜の黄金色が、白いケーキの側面をとろりと伝う光景に目を奪われていると、きゅうっ、と音がした。ドローレスは我に返って真っ赤になる。空腹のあまり腹を鳴らしてしまうとは、何という失態だろう。


「あら?」


 しかも、さらに悪い事が起こってしまう。ドローレスの腹の虫が抗議する音を、目ざとくクレアが聞きつけてしまったのだ。


 クレアはクスリと笑うと、ドローレスに向けて、熱々のソースがかかった魚のソテーを差し出してきた。


「よかったらどうぞ。こんなに沢山は、私一人では食べ切れませんから」

 クレアは、貧者に施しを与える聖職者のような目をしていた。


 しかし、それはドローレスにとっては、屈辱以外の何物でもなかった。施しとは、持つ者が持たざる者に行う行為だ。何でもある聖女と、何も持っていない鬼女。ドローレスは、クレアは暗に自分を侮辱したいのだろうと判断した。


「結構よ!」


 ドローレスは、差し出された皿をクレアの方につき返した。その拍子にソースが跳ねて、クレアの手にかかる。クレアは「きゃあ」と小さな悲鳴を上げた。


「失礼するわ」


 ドローレスは硬い表情で席を立つと、そのまま食堂を後にした。後ろではヘンリエッテが「聖女様!」と叫ぶのが聞こえてくるが、それもドローレスの苛立ちを強めただけだった。別に火傷なんかするほどの熱さでもないだろうに、ただ青藍の聖女だというだけで、皆があんな風に気に掛けるのだ。


 だが、イライラするのと同時に、ひどく惨めな気持ちにもなる。空っぽの胃が妙にむかむかするのを感じながら、ドローレスは速足で私室を目指した。


(全部、あの女のせいよ……)

 ドローレスの目は、憎しみでぎらついていた。


(クレアがいなかったら、私がこんな思いをしないで済んだのに……)


 結局、周囲と打ち解ける事も出来ないまま、クレアへの恨みだけを募らせて、ドローレスはその日は一日中、外には出なかった。

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