神が与えた試練?
「ひえぇ」
ドローレスの隣になってしまった女性は、まるで血まみれの幽霊と出くわしたかのような顔になって、スープの皿をひっくり返した。
「お行儀が悪いですよ、デリカ」
女性の反対側に座っていた修道女がたしなめる。だが先程の女性は、銅像みたいに固まったまま動かなくなってしまった。業を煮やした修道女は、テーブルの端に目を遣った。
「ヘンリエッテ様からも、何か言ってやってください」
この時初めて、ドローレスはこのテーブルに女子修道院長のヘンリエッテも座っていると気が付いた。だが、それだけではなかった。最悪な事に、ドローレスにとって大嫌いなあの女の姿も見つけてしまったのだ。無論、クレアである。
「ええ……」
ヘンリエッテは、粗相をしてしまった修道女を叱ってほしいという頼みに、上の空で返事した。それもそのはず。今の彼女は、自分の隣の席に座るクレアに敬愛の眼差しを送るのに忙しくて、他の事など一切目に入っていなかったのだ。
「あら、ドローレスさん」
代わりに反応してきたのはクレアだ。彼女は、ドローレスを見つけて目を丸くしていた。
「珍しいですね。いつもは自分の部屋で食べているのに」
(……嫌味な女)
ドローレスはクレアを睨んだ。
確かにドローレスは、いつもは自室で食事をしており、食堂に来るのもこれが初めてだった。しかし、ドローレスとて好きでそんな事をしている訳ではない。どうせ食堂へ行ったって、誰にも歓迎されないであろう事は明白なので、そうしていたに過ぎないのだ。
そんな事はクレアにも分かっているはずだろうに、わざわざこんな事を言うなんて、自分を小馬鹿にしているとしか思えなかった。
「関係ないでしょ」
ドローレスはつんとした声を出して、クレアから視線を外した。傍にあったワゴンから豆のスープを取って来て、それを一口啜る。その途端に、クレアへの嫌悪が料理への不満に変わった。
(ひどい味……)
毎度の事ながら、ここの料理は、どうやって作ったらそんな風になるのだと頭を抱えたくなるくらい美味しくない。はっきり言って不味いのだ。
昨日食べた野菜の酢漬けは腐ったような匂いがしたし、一昨日のパンは、作ってから十年は確実に過ぎているに違いない味がした。
今食べているスープだって、家畜の餌みたいだ。いや、ドローレスの実家で飼っていた猫や犬の方が、もう少しましなものを食べていただろうと確信を持って言える。
こんなものが毎日出て来るせいで、ドローレスはここのところ満足な食事をしていなかった。と言うより、する気になれなかった。
(これも、『神が与えた試練』っていう事なのかしら……)
それとも単に料理人の腕が悪いだけなのか。いずれにせよ、ひどい事だった。
ドローレスがげんなりしていると、ふと、この地獄の料理を出す食堂には相応しくないような、良い匂いが漂って来るのに気が付いた。




