追尾
モリスは二人の返事を聞いた後、事務机の上に置いてあった小さなベルを鳴らした。チリリンという澄んだ音色が響く。何の合図だろうと思っていると、先程ネルソンたちが入ってきたドアとは別の入り口から一人の修道女が入室して来た。
「失礼します」
か細い声と共に入ってきたのは、歩く度に骨の軋む音がしそうな痩せた女性だった。どこか病的に見えるのは、表情に乏しいからだろうか。
「彼女はヘンリエッテ。女子修道院長です」
モリスに紹介されると、ヘンリエッテは枯れ枝が折れる光景を連想させる仕草で、軽く腰を折った。「どうぞ、よろしく」と、落ち葉の擦れるような声が聞こえてくる。
「鬼女様とホートンさんの面倒は、彼女が見てくれます」
モリスがドローレスたちに言った。
「イングラムさんの方は、少々お待ちください。今から男子修道院長に連絡を……」
「大修道院長様!」
突然、ドアが勢いよく開け放たれた。扉の一番近くにいたドローレスが、小さな悲鳴を上げる。執務室に転がり込んできたのは、先程ネルソンたちを案内しくれたアダルバートだった。
「何事です」
モリスは、興奮して顔をまだらに赤くしているアダルバートを不愉快そうに睥睨した。
「来客中ですよ。慎みなさい」
「そ、そ、それが……た、大変なんですっ!」
アダルバートは半分パニックに陥っていて、まともにろれつが回っていなかった。それでも、木の幹のように固く太い腕を振り回し、口から唾を吐き散らしながら、懸命に何が起こったのか伝えようとする。
「せ、せい……せいじょ……聖女、様が、こ、ここに……」
「聖女様?」
モリスは、何の事やらさっぱりだという表情になった。
しかし、何事かを察したネルソンは、思わずヒルダと顔を見合わせる。ドローレスは口元を手で覆った。
「お邪魔します」
楽しげな靴音を響かせて、一人の女性が室内に入ってくる。肩の上で切り揃えられた藍色の髪が揺れ、右耳では、青いイヤリングが誇らしげに輝いていた。




