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交渉成立

 やがて、ネルソンたちは目的地に辿り着いた。どうやら、この大修道院のおさの執務室らしい。


 ネルソンたちを先導して歩いていた男が、鏡のように磨かれた琥珀色の木の扉をノックすると、中から「お入りなさい」という厳格そうな声が聞こえてきた。「失礼いたします」と言って、男がドアを開ける。


 室内は、灰色の石壁に覆われた、どこか寒々しい造りをしていた。必要最低限かつ質素な調度品しかなく、装飾の類は一切置かれていない。窓にかかる厚手のカーテンや、天井近くまで届く高い本棚が青色をしているのは、この場所を作った聖女を思慕しての事なのだろうか。


 部屋の最奥のくぼみに、神像が設置されている。その前に一人の女性が立っていた。頬骨の高い、顎の尖った厳しそうな人だ。聖職者というよりも、規則に厳しい学校教師のような雰囲気をまとっている。どこか威圧感さえ漂うそのたたずまいに、ドローレスがごくりと息を呑むのが分かった。


「案内ご苦労でしたね、アダルバート。お下がりなさい」

 女性が威厳たっぷりに言うと、慇懃いんぎんに頭を下げて、ここまでネルソンたちを連れてきた男が退出していった。


「わたくしはモリス。このインディゴ大修道院の大修道院長です」


 この部屋のごとく簡素な自己紹介を終えた女性は、不可解そうにネルソンたちを見遣った。


「本日いらっしゃるのは、鬼女様だけであると聞き及んでおりましたが」

「……申し訳ありません、大修道院長様」

 三人を代表して、ネルソンが頭を下げた。


「僕は、ネルソン・イングラム。ドローレスさんの……青嵐の鬼女に認定された女性の恋人です。そして、彼女はヒルダ・ホートン。僕の友人です」

 ネルソンの横で、ヒルダがわずかに膝を折って会釈した。


「僕たちは、ドローレスさんの付き添いで来ました。しばらく、ここに置いてほしいのです。いえ……できれば、僕の方は、ずっとここにいたいと考えています」


 ネルソンは、必死で自分の思いの丈を述べた。ここまで来て、部外者は帰れなどと言われたら、たまったものではない。このモリスという大修道院長は、そんな情け容赦のない発言も平気でしてしまいそうに見えるのだから、なおさら気持ちが急いてしまう。


「僕はドローレスさんを愛していますから、離れたくないのです。どうか寛容なご判断を……!」

「分かりました」


 最後には身を乗りだすようにして話していたネルソンだったが、肩透かしを食らってしまう程に、モリスはあっさりと許可を出してくれた。思わずネルソンは「えっ」と漏らしてしまう。失態を犯した生徒を見つけた教師のような顔つきで、モリスが片眉を上げた。


「こうして巡り合ったのも、神のお導きによるものでしょう。お二方とも、気の済むまでこちらにいなさい。ですが、このインディゴ大修道院に住むからには、あなた方にも奉仕活動に参加していただきますよ?」

「は、はい。構いません」


 トントン拍子で話が進み、ネルソンは半ば浮足立ちながら頷いた。ドローレスの方を見ると、彼女も安堵したのか、表情が緩んでいる。ドローレスも、ネルソンが受け入れられなかったらどうしようと心配していたのだろう。


 ヒルダも特に異存はないようで、「分かりましたわ」と返事していた。「よろしい」とモリスが言う。

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