二つの嫉妬心
ドローレスはクレアとの競争に負けてしまったが、その勝負の結果を納得いかないものだとは思っていなかった。
確かに、ドローレスはこの戦いに勝ちたかった。そのために、あの手この手でクレアの妨害もした。だが、それは何一つとして上手くいかず、ドローレスの意図に反して、困難を共に乗り越えたクレアと周囲の者たちの絆を強める事に繋がってしまったのだ。
しかも、そんな妨害工作に気を取られ過ぎたせいで、ドローレスは競争の最中、あまりネルソンに構えなかった。今思えば本末転倒だが、その時のドローレスは、自分とネルソンの間にはすでに誰にも犯しがたいような深い愛情があるから、今更何かをする必要なんてないと本気で考えていたのである。
だが、そんな油断が原因でドローレスは負けてしまった。完全に自業自得だ。敗因を悟ったドローレスは、勝負の結果を不服として受け取りはしなかった。それでもショックを受けたのは事実だ。
なぜならば、愛の競争に負けるそれすなわち、ドローレスのネルソンへの愛など所詮その程度だったのだという証明に他ならなかったからである。
しかし、そんな事はないのだとネルソンは否定してくれた。彼はドローレスの愛情を疑う事なく、あんな寂れた宿屋まで来てくれたのだ。
戦いに勝ったクレアの事を考える度、自分の愛の浅さを思い知らされる気がしてどんどん惨めな気分になっていたドローレスにとっては、ネルソンが来てくれたのは救い以外の何物でもなかった。彼のお蔭で、クレアへの恨みもほとんど忘れられた程だ。
だから、最初にクレアへの報復を口にした時だって、その憎悪は心の奥底に溜ったほんの残りかすくらいのものでしかなかった。それこそ、ネルソンにそんな馬鹿な事を考えるのはやめようと諭されれば、すぐに収まってしまう程度の憎しみだったのだ。
だが、クレアがやって来た事によって、消えかかっていたはずの敵意は復活してしまった。ドローレスは、それが被害妄想だと分かっていても、クレアの心の声が聞こえてしまったのである。「そんな薄っぺらい愛しかあげられないなんて、ネルソンさんが可哀想。自分なら、もっと深い愛情で彼を包み込めるのに」と。
忘れていた屈辱が蘇ってきた。それと同時に、ネルソンがクレアの『深い愛』に魅せられてしまうのではないかと不安にもなった。この二つの感情がない交ぜとなり、ドローレスのクレアへの嫌悪は、風前の炎のように煽られていったのである。
(私って……嫉妬深いのかしら……)
クレアやヒルダの事でモヤモヤするのは、全ては醜い嫉妬心が原因だ。そんな自分の薄汚い面を見たら、ネルソンはどう思うだろう。やっぱり鬼女の傍になんていたくないと考えを変えてしまうだろうか。
クレアへの嫌悪は、何故かどうやっても隠せそうもない。だが、ヒルダへの妬心は、まだどうにか心の奥底へしまい込めそうだ。だとするならば、これは誰にも見せず、自分自身も気が付かない振りをする方が賢明なのではないだろうか。
(そうよ……いつか本心から、「良いお友だちを持っているのね、ネルソンさん」って言える日がきっと来るわ)
だが、そう思ってみた矢先に、ネルソンとヒルダのいる窓の外には意識して目を向けないようにしている自分に気が付いてしまい、ドローレスはまたしても己の醜さを嘆くのだった。




