ドローレスの憂鬱
ドローレスは、馬車の小窓から外を覗いていた。馬車が止めてあるところから少し離れた木立で、ネルソンとヒルダが会話をしている。ここからでは距離があるため、何を話しているのか分からないが、ドローレスには二人がとても親密そうに過ごしているように見えた。
ネルソンが腕を伸ばしてヒルダに触れようとした。彼女はそれを避けたようだったが、ドローレスは、胸にガラスの破片が刺さったような痛みを覚える。
(ネルソンさん……)
ドローレスの美しい顔に愁いが滲む。
ドローレスは自分が馬車に残ると言った時に、ネルソンもここにいると申し出てくれるのを本当は期待していた。だが、彼はヒルダと外に出て行く事を選んでしまった。
(ネルソンさん……早く戻って来て……)
だが、祈るように恋い焦がれたところで、それは届かない。自分が鬼女だからなのかもしれない。忌まわしい存在の願いなんて、聞く耳を持ってもらえないという事か、とドローレスは卑屈な気持ちになる。
では、もしこれが聖女の祈りならば、ネルソンは最初から自分といてくれたのだろうか。
青嵐の鬼女に認定されたドローレスは、それまでの生活が一変してしまった。家族でさえもドローレスを怖がり、話しかけてくる事はおろか、近づく事すらなくなってしまう。ドローレスが手に入れる事が出来たかもしれない、華やかで名誉に満ちたものは全てクレアのものになり、ドローレスが得たのは、左耳の藍色のイヤリングだけだった。
青嵐の鬼女がどういう存在なのかを身をもって知ったドローレスは、孤独と不安ですっかり憔悴してしまっていた。
このまま全ての人に疎んじられながら生涯を辺境の修道院で終え、寂しく死んでいくしかないのだという、どうあっても覆せそうもない事実に、絶望していたのだ。
そんな時だった。ネルソンが自分に会いに来てくれたのは。




