実験
「実験だって……? 一体何の……?」
「もちろん、エンディング後の世界で、どこまで無茶が許されるのかについてですわ。つまり……わたくし、この世界の理をもっと解き明かしてみたかったんですの」
ヒルダは諦めのような笑みを零して、ネルソンの方を見た。
「ネルソンさん、嘘をついてあなたの不安を煽ってしまった事は謝りますわ。あなた、隠しキャラなんかではありませんのよ。正真正銘のモブキャラですわ」
「な、何だって……!?」
突然降ってきた暴露にネルソンは驚愕する。
「わたくし、クレアにこう言いましたの。『あなたがネルソンさんを手に入れる事が出来れば、聖女としての力が強くなりますわ』って。クレアはそれを信じましたわ。あの子は強欲。聖女としての力に憑りつかれている。ですから、自分の力の増幅の手段がまだ残されているのなら、試してみない手はないと思ったのでしょう」
浅ましい、とヒルダは吐き捨てる。
「ネルソンさんならもうお分かりかと思いますが、このゲーム、すでに終わっていますのよ。これは後日談でも何でもありませんわ。ただのわたくしの実験の舞台ですの」
ヒルダがくすりと笑う。
「あなたの推測の通り、わたくしはクレアにドローレスさんの居場所を教えましたわ。と言っても、正確には、伝えたのは『ネルソンさんの居場所』なんですけれど。まあ、ドローレスさんのいるところはあなたのいるところですから、そこに大した違いはありませんわ」
ヒルダの表情が一瞬強張り、ネルソンはふと違和感を覚える。だが、それに言及する前に、ヒルダが言葉を続けた。
「そこからは、随分と面白いデータが取れましたわ。この状況……あれは、エンディングを迎えているにもかかわらず、主人公が無理やりゲームを続行している状態でしたのよ。しかも、攻略する対象はただのモブだときますわ。どんな結果になるのか、わたくし、とても興味深く観察していました」
『データ』、『観察』と、随分無機質な言葉が並んでいく。それと同様に、ヒルダの口調もまた、乾いたものだった。そこに、どんな手を使ってでも知識欲を満たそうとした者の狂気は見当たらない。
「ネルソンさん、ドローレスさんがクレアに対して異常な恨みを抱いたのも、あなたの求婚を遮ったのも、きっと主人公が終わったはずのゲームを無理に進めていた影響ですわ。あの好感度ゲージだって、本当は少しくらいなら溜まりこそすれ、満杯になる事はなかったのでしょう。だって、モブキャラが主人公に攻略されるなんて事、あるはずがありませんから」




