君の目的は?
「あの鳥……」
ネルソンはゆっくりと目を閉じた。
「あの藍色の鳥の死体を、ドローレスさんの部屋に入れたのは君だね?」
ヒルダははっとなったようだった。ネルソンはやはり彼女の仕業だったのだと得心する。
「ドローレスさんが言っていた。あの鳥を湖で僕と見たのが大切な思い出だから、自分は他の誰にも話していないと。でも、僕は違った。僕はあの鳥の事を話した。……君に」
ネルソンがヒルダを指差す。
「これは推測だけど、君はドローレスさんにショックを与えようとしたんだ。君はあの鳥がドローレスさんにとって大切なものだと気が付いていた。だから鳥を殺せば、ドローレスさんが傷つくと分かっていたんだ」
ただ嫌がらせのために動物の死体をドローレスのもとに寄越したいのなら、わざわざ野生の鳥なんかを選ぶ必要はない。この大修道院にはたくさんの家畜小屋があるのだ。そこから一匹連れてくればいいだけの話である。
しかし、この事件の犯人はそうはしなかった。ネルソンは、そこに何か意味があるのではないかと考えたのだ。
「ヘンリエッテ元女子修道院長は、自分がやったんじゃないって最後まで否定していたけど、あれは本当だった。鳥の死体の傍に彼女のハンカチが落ちていたのは、君が細工したからだ。大方、洗濯物の中からくすねたんだろう」
確かに状況から見れば、ヘンリエッテが一番怪しかったのだが、いかにもわざとらしく置いてあったハンカチにネルソンはちょっとした違和感を覚えていたのだ。
そして、その後に聞いたのはドローレスの「あの鳥の事は誰にも話していない」という発言である。その瞬間に、ネルソンが抱いていたおぼろげな疑惑ははっきりとした形を持ってしまった。
「あの時、君は納屋の放火犯だと疑われて大分迷惑を被っていた。だから、何か他の事件を起こして、皆の注意をそちらへ逸らそうとしたんじゃないか? もっとも、君が陥れた相手は、たまたまもっとひどい事をしていた人だったんだけれど」
そんなふうに考えつつも、ネルソンがモリスのところへ行ったのは、この件はともかく他の事件については、ヘンリエッテが関係している可能性が高いと判断したからだ。要するに、ただ揺さぶりをかけるだけのつもりだったのである。
もしかすると、ヒルダの本来の目的もそれと同じだったのかもしれない。別の事件の容疑者としてヘンリエッテが審問されている内にあの放火事件の真相も明るみに出る事を期待して、彼女を罠に嵌めようとした可能性もある。
結果としてヘンリエッテは罪を暴かれたが、それでも濡れ衣を着せられたまま追放されてしまった。だが、ネルソンは彼女の身の潔白を証明してやろうとは思わなかった。
ドローレスを含む誰もが、あの事件はあれで解決したと思っている。ならば、それでいいような気がしていたのだ。親友をわざわざ窮地に立たせるような真似なんて、ネルソンはしたくなかった。
話し終えた後のネルソンは、ヒルダが何か言ってくれるのを待った。出来れば、「何を言っているんですか。そんなの全部ネルソンさんの勘違いですわ。随分と想像力が豊かなんですのね」と笑い飛ばしてほしかった。
だが、今のヒルダの硬い表情を見る限り、いくら待ってもそんな台詞が飛び出してくる事はなさそうだった。ネルソンは額に手を当て、深いため息をつく。
「どうしてだ、ヒルダ……」
ネルソンは下唇を噛んだ。
「僕には……君の事が分からない。君はドローレスさんの事が嫌いだったのか? だからこんな事をしたのか? 双子の妹のクレアだけじゃなくて、ドローレスさんの事も疎ましく思っていた……?」
「あえて言うなら……」
置物のように黙っていたヒルダが突然口を開いた。
「実験ですわ」
「えっ?」
予想もしていなかった言葉が出てきて、ネルソンは訝しむ。




