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疑いの根拠

「何の事でしょう……?」


 ヒルダは掠れた声を出した。それはネルソンが突拍子もない事を話し出した事に対する驚きのようにも、図星を指された事への動揺にも見えた。


「最初におかしいと思ったのは、ドローレスさんの泊まっている宿にクレアが来た時だ」


 ネルソンはヒルダの反応を観察しながら説明を始める。


「覚えているか? ドローレスさんがどの宿に泊まるのか、僕たちがどれだけ苦労して調べたのか」


 青嵐の鬼女だと発覚した後のドローレスは王都の離宮に監禁され、外部との接触を一切禁じられていた。


 そこでネルソンは、ドローレスの今後について把握するためにヒルダの手を借りたのである。だが、二人がかりで調査しても、情報を掴むのはかなり骨の折れる作業だった。


「僕たちが探りを入れている間、他にドローレスさんの行方を調べている人がいるなんて話は聞かなかった。それなのにクレアはあの宿にやって来た……」

 ネルソンはかぶりを振った。


「僕はクレアに協力者がいるんじゃないかと疑った。もちろん、その時のクレアは聖女だったから、力を貸したいと思う者は多かっただろう。でも、ドローレスさんのこれからの事について知っている人自体はそんなに多くない。つまり、クレアに情報を与えられる人は限られてくるんだ」


「その『限られた人』の中には、確かにわたくしも含まれていますわね」

 動揺から回復したヒルダが、何気ない口調で言った。


「まさかネルソンさん、それだけでわたくしを疑っているのかしら?」

「そんな訳ないよ」

 ネルソンが否定してみせると、ヒルダの頬が少し強張った。


「次に変だと思ったのは、クレアとドローレスさんが喧嘩をした時だ」


 ネルソンが宿を訪れた翌朝、クレアがネルソンに絡んでいるのを見て、ドローレスは激怒していた。


「あの喧嘩を見た町の人たちが、ドローレスさんを懲らしめようとして追いかけてきた事……君も覚えているな?」

 ヒルダはおずおずと頷いた。


「じゃあその後、君が何を言ったのかは?」

「わ、わたくし、何も言っていませんわ」


 ヒルダの声は上ずっていた。ネルソンは胸が塞がれたような気持で、「言ったんだよ」と呟く。


「君はあの小競り合いのせいで引き起こされた事を――町民の暴挙を、『予想外』だと評したんだ。変じゃないか? だって、それじゃあまるで、クレアとドローレスさんの喧嘩の方は起こってもおかしくはない事態だと、君は予想していたみたいじゃないか」


「それはおかしな事ではないでしょう。だってあの二人、仲が悪いですから」


「……確かにそうだね。でも、僕にはこう聞こえたんだよ。君は『二人が相見える事』は、ずっと前から……それこそ、あの宿に着く前から(・・・・・・・・・)予想していた。でも、『二人が喧嘩した事で町民が蜂起する事』までは考えていなかった。……『予想外』だったって事だ」


 ヒルダはぎくりとしたように身を竦ませた。ネルソンはダメ押しのように続ける。


「ドローレスさんは辺境の大修道院で過ごして、クレアは王都の大聖堂で暮らす事になっていた。それなのに、どうしてそんな二人がまた出会う事があるなんて予想できた?」


 ネルソンは、クレアを呼んだのはヒルダではないかと考えた。だが、それから長い間、ヒルダは何も行動を起こさなかった。ネルソンもヒルダを疑う気持ちこそあれ、親友の潔白を信じたいという思いもあり、努めて探りを入れるような事はしなかった。


 しかし、ある決定的な事が起こり、ネルソンはヒルダが他にもとんでもない事をしていたのだという確信を持ってしまった。

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