イヤリングの力
それからの日々は特に大きな事件が起こる事もなく平穏に過ぎていった。唯一、皆を騒がせた事と言えば、クレアが行方不明になった事くらいだろうか。
ネルソンがクレアに夢中になった振りをしてイヤリングを交換したあの日から、クレアは行方が分からなくなってしまっていた。それと同じタイミングで、彼女のハーレムメンバーと、修道者のアダルバートも大修道院からいなくなっていたと発覚する。
彼らがクレアの逃亡に手を貸したのではないかと皆は考え、大修道院の外に捜索隊も出された。だが、未だにその消息は知れないままだ。
「本当に、どこに行ってしまったんでしょうね」
ヒルダは複雑そうに呟いた。
今、談話室にいるはヒルダとネルソンだけだ。こうして二人だけで話すのは、クレアが修道院を出て行って以来、初めてになる。
クレアが行きそうなところを姉であるヒルダなら知っているのではないかと色々な修道者が尋ねてきたそうだが、ヒルダは特に心当たりがないらしい。何を聞かれても「知らない」と答える事しか出来ないのを、歯がゆく思っている様子だった。
「それにしても、皆さん最初からクレアが鬼女であったかのように振る舞うんですのね。わたくし、驚きましたわ」
皆がクレアの捜索に必死になっているのは、クレアが鬼女だと思っているからだ。ドローレスの逃亡疑惑が持ち上がった時と同じように、今回も自分たちが鬼女を逃がしたと思われたくないと考えているのだろう。
それに、大修道院に仕える者が鬼女の逃亡に手を貸したかもしれないなんて、醜聞に他ならない。失態が外に漏れる前に何とか片をつけたがっているのだ。
「やっぱりイヤリングの力はすごいな」
ネルソンの見立て通り、あの二つイヤリングは、やはりこのゲームのキーアイテムだったのだ。だから、何人もの人が――特に主要人物は、あのイヤリングによって振り回されたのである。
例えばヒーローたちは、青のイヤリングを持つ事になっていて、尚且つそれをつける資格のある人を愛するように『設定』されていたのだろう。つまり、彼らは最初から『聖女』しか愛せないようにできていたのである。
だから彼らはクレアを見捨て、ドローレスの所へやって来たのだ。クレアが鬼女になってしまった以上、聖女になれるのはもはやドローレスしかいないからだ。
言わばあれは、ドローレスが『聖女』の役割と共に、クレアがヒーローたちから稼いだ好感度も引き継いでしまったような状態だったのだ。
しかし、ドローレスがその『資格』を放棄した事によって、ヒーローたちの『愛する対象』はいなくなってしまった。そのため、もうこんな所に用はないとばかりに大修道院から去っていったのだろう。
クレアの事だって同様だ。唐突に鬼女だと認定されてしまったのは、彼女が『鬼女の証』であるアイテムの所持者となったからだ。
ネルソンがそういった『設定』の影響を受けていないのは、やはり隠しキャラのイレギュラー性故なのだろうか。
ヒルダもクレアの事を前から鬼女だったと感じているのではなく、鬼女に『変身』したと理解しているのは、事前にネルソンから、二人の役割が交換されると聞いていたためかもしれない。




