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覚めない悪夢

「おはようございます、ネルソンさん」

 

 次の朝、ドローレスの隣の部屋に宿を取っていたネルソンが、店のカウンターで支払いを済ませていると、満面の笑みのクレアがいそいそと近寄ってきた。


「……まだいたのか」

 ネルソンは、クレアの取り立てて美しくもない顔を見て肩を落とした。


 実は、一晩経って彼女が心変わりを起こして自分を攻略するのを諦めてくれないだろうかと少し期待していたのだ。だが、相変わらずクレアの頭の上には、ネルソンの名前が付いた好感度ゲージが表示されていた。


「私、ネルソンさんが一緒に王都に来てくれるって言うまで帰りませんよ?」


 クレアは笑顔だったが、その口調には強い決意が現れていて、頑として譲りそうもなかった。だが、何を言われたって、ネルソンはドローレスの元を離れるつもりはない。


 そんなネルソンの心中を察したのか、クレアは、今度は少し手を変えてきた。


「ねえ、ネルソンさん。今度王都に、青藍の聖女をまつる大聖堂を作るそうなんです」

 クレアは、目を輝かせた。


「私、そこに住む事になっているんですよ。完成図を見せてもらったんですけど、とっても綺麗な建物でした。それに、庭師とか料理人とか沢山の人を雇って、私が快適に住めるようにしてくれるんだそうです。きっと、大聖堂はすごく良い所になりますよ。そこで暮らせたら、辺境の修道院なんかより、ずっと素敵だと思います」


「そこにドローレスさんがいるなら、僕も行っても良いが」

 ネルソンは冷めた口調で返した。


「ドローレスさんがいる方が、僕にとっては王都の大聖堂なんかよりずっと良い。君には分からないかもしれないが……」

「聖女様……?」


 ネルソンが苦言を呈していると、店の奥から昨日の店主の男がドタドタとやって来た。だが、様子が変だ。汗をだらだらと流し、その目は飛び出さんばかりに見開かれている。


「その御髪と瞳……ま、まさか青藍の聖女様でいらっしゃいますか……?」

「ええ、そうです」

 クレアは、女王が臣下に向けるような笑みを作った。


「な、何とありがたい!」


 店主は、床に頭を擦りつけてクレアを拝んだ。まるで神が目の前に降り立ったかのような反応に、ネルソンは呆気に取られてしまう。


「ああ……寿命が延びるような心地です。鬼女が泊まってしまったこの店は、近い内に潰れるだろうと思っていましたが、まさか聖女様がおいでくださるなんて……。これで私たちも安泰です……」

「あなたに青藍の聖女の祝福があらん事を」


 クレアは厳かに言って、ひれ伏す店主の肩にそっと触れた。店主は「ひっ」と短い声を出し、そのままピクリとも動かなくなってしまう。どうやら、歓喜のあまり卒倒してしまったらしい。思いもよらぬ展開に、ネルソンは呆然となった。

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