イヤリングの代わりに
(どうしよう……)
ドローレスは火花を散らす男たちの様子を、固唾を呑んで見守っているしかなかった。下手に自分が口を出したところで、さらに事態がややこしくなるだけだと思ったのだ。
(そもそも、どうしてこの人たちは急に私に興味を持ち出したの……?)
あんなにクレアに夢中だったのに、今では彼女の事なんて皆どうでも良いと思っているようだった。もしかして、クレアが持っていた魔法のような魅力が失われてしまったのだろうか。それとも他に何か原因があるのか。
――あんな娘の事はもう気にするな。我々が愛しているのは、本物の聖女であるドローレスだけだ。
ふとセシルの言葉が蘇ってくる。彼は、ドローレスが『本物の聖女』だから愛するのだと言っていた。
(じゃあ……私が聖女じゃなかったら、この人たちは私を愛さなくなるのかしら……?)
ドローレスはじっと考え込んだ。彼らはハーレムを作って、クレアに毎日のように愛を囁いていた。だが、クレアが聖女の地位を追われた途端に、彼女を見捨てたのだ。つまり、彼らが愛しているのは『クレア』ではなく『青藍の聖女』だったという事だろう。
ドローレスは即座に心を決めた。迷いなどない。ドローレスは窓を開けると、イヤリングをそこから投げ捨てたのである。
「なっ……!?」
ネルソンとハーレムメンバーたちはお互いに気を取られていたために、ドローレスの行動に気が付くのが遅れた。彼らが何が起こったのか察したのは、イヤリングが眼下に広がる茂みの中に吸い込まれていった後の事だ。
「悪いけど、私の愛は皆のものじゃないの」
ドローレスは悪戯っぽく笑った。
「私は聖女じゃないもの。私の愛はただ一人だけに与えるもの。そう……ネルソンさんのものよ」
ドローレスは窓辺から離れ、ネルソンに向かって歩いて行った。ハーレムメンバーたちは、預言者に割られた海のように脇へと退く。ドローレスは難なくその間を渡り、ネルソンの腕の中に飛び込んだ。
「ねえ、そうでしょう?」
ドローレスは微笑みかける。ネルソンは我に返ったような表情になると、相好を崩した。
「ああ、その通り」
ネルソンがゆっくりとドローレスの髪を撫でた。
「僕だけのものだよ」
呆然とするハーレムメンバーたちを尻目に、ネルソンがドローレスの手のひらに何かを乗せてきた。それを見て、ドローレスは目を丸くする。
かつてネルソンがあの宿屋でドローレスにくれた指輪だった。だがそれは、ドローレスが捨ててしまったはずだ。
「拾ってくれたのね……?」
「ごめん、使い回しで」
ネルソンはすまなさそうな顔になったが、ドローレスはそんな事はちっとも気にならなかった。自分の捨てた想いを彼が拾って大切にしてくれていたのだと思うと、嬉しさと申し訳なさでいっぱいになる。
ハーレムメンバーたちは、憑き物が落ちたような表情になって部屋から出て行った。だが、とっくに二人だけの世界に入り込んでいたドローレスたちは、そんな事は気にも留めなかった。
「僕と結婚してほしい」
あの宿屋で言えなかった言葉を、ネルソンは口にした。それに対して、ドローレスは返事をしなかった。だが代わりに、彼の呼吸を奪うようにキスをする。
それだけで何もかも通じ合えたのだろう。お互いの懐かしい体温に酔いしれるように、二人はいつまでもそうして寄り添っていた。




