消せない想い
もう泣く気力もなくなってしまったドローレスは、ベッドの端でうずくまっていた。
(ネルソンさん……)
ドローレスは泥のような後悔に体が沈み込んでいくのを感じていた。彼がいなくなってしまった後の自分は、予想以上に空っぽだった。
何もする気が起きない。ただ息をするのさえも苦しくて、胸を掻き毟りたくなるような衝動が時折体を駆け抜ける。だが、それに反応するのさえもう面倒だった。
――またここに戻ってくるから……。その時は、もうこれから先、絶対にあなたを不幸にするような事はしないと約束する。
ネルソンの言葉が蘇ってくる。あんなのは嘘だ。自分を騙そうとしていたのだろう。ドローレスはそう思おうとした。
だと言うのに、まだあの言葉に縋りたい自分を心のどこかに見つけてしまって、ドローレスの淀んだ目が潤み始める。
(ああ……私、とんでもない事をしてしまったのね)
結局のところ、自分はどこまでもネルソンを愛しているのだ。離れたいなんて思っていない。彼と一緒にいたい。あんな嘘を本気にしてしまうくらいには、彼の事が好きだったのだ。その事を自覚した途端、ドローレスの中に、こんなところで萎れている場合ではないという焦りが湧いてきた。
(渡さない……。誰にも渡せない……)
ネルソンが他の誰かに心を奪われてしまったのなら、それを取り返さないといけない。クレアだろうとヒルダだろうと、何があっても全力で取り戻す。どんなにみっともなくても、負け犬の最後の足掻きだと笑われても、それしか自分が救われる道はないのだ。
ドローレスは足に力を入れた。ベッドから立ち上がると、決意を込めた足取りでドアへと近づく。
だが、ドローレスが扉を開けるより早く、ドアが開いた。そこに立っていたのはネルソンだった。ドローレスは動揺する。
「ど、どうしてここに……?」
「約束、もう忘れてしまったのかな?」
ネルソンは冗談めかした口調で言うと、懐から何かを取り出した。
「もっと早くこうすればよかった」
ネルソンが閉じていた手のひらを開ける。そこに乗っていたものを見て、ドローレスは目を剥いた。
青いイヤリングだった。それは、いつもクレアがつけている聖女の証だ。本来ならこんなところにあって良いものではない。ネルソンが持っているはずのないものなのだ。
「僕がさっさと気付けば良かったんだ。そうすれば、あなたを悲しませずに済んだのに……」
ドローレスは困惑のあまり、彼の言葉を半分も聞いていなかった。探し求めていたネルソンが自分から会いに来てくれた。あの言葉は正真正銘の本物だったのだと分かった喜びよりも、この状況に理解が追いつかずに、ただ立ち尽くしている事しか出来ない。
だが、ネルソンが青のイヤリングをこちらに差し出してきたせいで、ドローレスは否が応でも現実に引き戻され、後ずさりしてしまった。




