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最後の……?

「俺はあなたをお慕いしています」


 アダルバートが、今度は落ち着いたトーンで言った。


「だから、あなたに喜んでもらおうとした。あなたが好きだと言ったウサギを送ったし、あなたが欲しいと言っていた人形も渡した……。あなたが嬉しいと思う事をしたかったから……」


「えっ……じゃあ、あのウサギの死体と呪いの人形は、あなたの仕業だったんですか!?」


 思いもよらなかった事実を知って、クレアは目を見開いた。だが、アダルバートはその言葉を聞いて「ち、違います!」と、厚ぼったい大きな手を顔の前で振った。


「ウ、ウサギは、最初は生きていたんです! でも、俺は、ば、馬鹿力だから、運んでいる途中で、うっかり絞め殺してしまったんです! その事に気が付かないで部屋に入れてしまって……。に、人形だって、手先が不器用であんなものしか……」


 アダルバートは己の木の幹のような太い指を見つめて、悲痛な表情になった。


「ぬいぐるみなんて、俺には作れません。でも、藁を編めば人形くらいは出来るかと思ったんです。あ、あの人形は……俺のつもりでした。あの髪も俺のものです。クレア様があれを大切にしてくれれば、自分も愛されているような気になれると思ったんです。俺みたいな醜い男が清らかな聖女様に愛してもらえるには、それだけしかなかったから……」


――わあー! ウサギ、可愛いですね! 白くてもこもこです!

――今度、私のためにお人形か何か作ってくださいね!


 どうやらアダルバートは相当思い詰めていたらしい。少なくとも自分が漏らした何気ない一言をずっと覚えていて、どうすれば愛しい相手を喜ばせる事が出来るのかを考え、それを必死で実行しようとした程には真剣だったのだ。


 そのあまりに純真でいたいけなあり方に、クレアは胸を衝かれた。


「でも、藁で作った人形が呪いの道具になるだなんて知りませんでした。俺は頭が良くないから、そんなものが存在するなんて、考えた事もなかったんです」


「どうして何も言ってくれなかったんですか……?」


 アダルバートが沈黙を貫いていたせいで、ウサギの件も人形の件も随分と大きな騒ぎになってしまったというのに。


「悪い事をしてしまったとは思っています」

 

 アダルバートは陰鬱な顔に更に暗い影を落とした。


「でも……本当の事を言えば、俺みたいな醜い男が聖女様の特別な愛を得ようだなんて不相応だと罵られるに決まっている。もしかしたら、あなたからも蔑まれるかもしれない。そう思うと、怖くて仕方がなかったんです……」


 アダルバートは、また自らを『醜い』と称した。だが、こんなに一途に、そして真摯に自分を慕ってくれる彼のどこが醜いものかとクレアは思う。


 それよりも、クレアが軽蔑すべきは、実はそんな彼の視線に応え得る存在ではなかった自分自身であるような気がしていた。


「私はもう聖女じゃありません」


 クレアは左耳のイヤリングに触れた。この重みは、これから先も、自分がずっと背負っていかなければならない枷だった。


「偽物、だったんですって。私、本当は鬼女だったんです。これからは、誰にも祝福を与えられない。その代わりに、呪いを吐きながら生きていくんです。それしか……ないんです」

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