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俺は、あなたを……

「泣いていらっしゃるのですか? 何か悲しい事があったんですか?」


 アダルバートの声は震えていた。その目からは、自分に対する気遣い以外の感情は読み取れない。優しくされている事が信じられなくて、クレアは一瞬、幻でも見ているのではないだろうかと思ってしまった。


「何故、ですか……?」

 クレアは呆けながら尋ねた。


「何故、私なんかを心配してくれるんですか……?」

「ご自分を蔑まないでください!」

 アダルバートは悲愴な顔になった。


「あなたは素敵な方です! だって……」


 アダルバートは何かを言いかけて、恐れおののいたように黙り込んだ。二人の間に沈黙が落ちる。


「……あれは何ですか?」


 黙っているのに耐えられなくなったクレアは、床に転がる花束を指差して尋ねた。アダルバートが持っていたものだ。


「手向けの……花です」

 アダルバートがもそもそと答えた。


「つい先程……女子修道院の病院に入院していた、マギーさんという方が亡くなったと連絡があったんです。だからお別れに花を持っていってあげようと……。でも、その途中で何だか胸騒ぎがして、この宿舎に来てみたんです」


 『胸騒ぎ』というのは、アダルバートもクレアの身に起こった異変を察知したという事だろうか。だが、クレアはもっと別な事に衝撃を受けていた。


「亡くなった……マギーさんが……」


 クレアは、『マギー』という名前に聞き覚えがあった。確か、自分が病院を訪問した時に会った老女だ。彼女は聖女に会えた事に非常に感激し、それから嘘のように病気が良くなっていったのだという。


 そんな彼女が亡くなってしまった。クレアは打ちのめされた。自分が鬼女だから、マギーに不幸が降りかかって、その命を刈り取ってしまったのではないだろうかと思ったのである。


「ああ……私、なんて恐ろしい事を……」


 クレアは己の犯した罪に戦慄して、胸が張り裂けそうになった。


「私が鬼女だから……殺してしまった……。ああ……何て罪深い……。私はそれほどまでにおぞましい存在だったんですね……」

「そ、そんな事はありません!」


 呆然自失となっていたクレアの肩をアダルバートがきつく揺さぶった。彼は火傷をしたようにすぐに手を放してしまったが、そのあまりに必死な形相に、クレアはアダルバートをまじまじと見つめた。


「あなたがどういう方なのか、俺はよく知っています! いつもあなたを見ていましたから! 俺は……俺は、あなたをお慕いしているんです!」


 何の脈絡もないような、突発的な愛の告白だった。言ってしまった後で、アダルバートは心底後悔したような顔になった。


 だが、自分を見つめてくるクレアと目があった事で、何かの決心をしたようである。アダルバートは息を大きく吸い込むと、もう一度口を開いた。

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