本当の私は
(私は、もう皆を幸せに出来ないの……?)
床にへたり込んだクレアは、両腕で体を抱きしめ、震えていた。
昔から人々に幸福を与える事が自分の使命なのだと教えられて生きてきた。あなたこそが聖女なのだと、愛と祝福に満ちた存在なのだと、そう言われてきたのだ。
クレアはそれを一度も疑った事はなかった。それなのに、その信念に自分は裏切られたのだ。ずっと聖女だと信じてきた自分が、今更何になれると言うのだろう。
いや、その答えはすでに出ていた。もう一度姿見を見つめると、そこには聖女のイヤリングの代わりに、鬼女の証を与えられた自分の姿が映っている。
本当の自分は、信じていたものとは真逆の存在だったのだという事実を突きつけられた証拠だった。クレアの視界が滲んでいく。
(ああ……どうして……)
自分が自分でなくなっていくような感覚だった。これからは、皆に争いと不幸をばら撒いて生きていかねばならない。何て恐ろしい生き物なのだろう。
今までの自らの在り方とは正反対の道を歩まねばならないと気が付いて、クレアは絶望のあまりぽろぽろと涙を零した。
自分は鬼女などではないと思いたくても、左耳の藍色の輝きがそれを嘲笑うのだ。これがある限りはお前が鬼女なんだ、諦めろ、と。
ひどい喪失感が猛毒のように体を駆け巡っていたせいで、クレアは動く事も出来ないでいた。その背に、ふと大きな影が差す。力なく見上げると、花束を抱えたアダルバートが立っていた。
(きっと……彼も私の事なんて、もうどうでもいいんでしょうね……)
アダルバートは、クレアが大修道院に来た日から、本当に自分に良くしてくれていた。彼が自分を見つめる目には、いつだって情熱が籠っており、『青藍の聖女』への深い敬愛が見て取れた。その視線がこれからは蔑みの眼差しに変わるのだろうと思うと、どうにもやりきれない。
だが、彼はクレアが思ってもみなかった行動に出た。
「クレア様! どうしたんですか!」
アダルバートは花束を投げ出すと、床に膝をつき、心配そうに声を掛けてきたのだ。予想とまるで違う展開に、クレアは驚く。




