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悪役令嬢に転生したら、亡国を立て直すことになりました  作者: のみ
第1章 魔術との出会い
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第7話 魔術の行使

ガチャリ、という軽い音とともに鍵が開く。

扉が開くと、長身の大男が姿を現した。


『強さこそ最重要項目』であるロマン帝国には、強さを証明する術が武術しかない。魔術が広まっていない世界だから、武術で秀でた人間こそ一番なのだ。

そんな国で皇帝の地位についているこの男は、「強さ」を象徴するかのように長身・大柄で、石のように固い筋肉を持っている。剣を自分の手のように扱うその姿は、一種の芸術と表現してもいいくらいだ。素手でも強いらしく、ロマン帝国騎士団長と素手でタイマンを張れると評判の、父親。


私と並ぶとその身長差に目がくらみそうにいなる。

その長身を、私は顔を思いきり上にあげて見つめた。


「ごきげんよう、父様」

「相変わらず弱そうな肢体だな、娘よ。情けなくないのか」

「……逆に父様は、ムキムキの娘がみたいんですの?」

「細っこい体の娘よりはずっとましだ。貴様も少しは役に立つよう努力せよ」

「お役に立てますよう、日々勉強はしていますわ」

「ふん、はなから期待しとらん」


一人だと広く感じていた懲罰房だが、父親が来た途端狭く感じる。

その体躯の巨大さに驚きながらも「何用だ」と顔に張り付けていたのがばれたのか、バッハは口火を切った。


「お前も、ファントム家の一員だろう。私は認めていないが」

「えぇ、ファントム家の名声を汚さないよう日々努力しています」

「お前もそろそろ6歳だからな、披露パーティーを開かねばいかん。バカ娘を世に公開するのは気が進まんが、世間体を考えると仕方がない。明日までにドレスを選べ。エスコートはエイジがする」

「承知いたしました」

「明日商人が来る。相談はソイツにしろ。質問は?」

「予算は」

「好きにしろ」

「わかりました」


用件だけ告げると、また鍵をかけてバッハは帰ってしまった。

そろそろ6歳、と言っていたが既に6歳だ。

本当にマリアに興味がないのだな、と肩を落とした。


※※※


そこからエイジが鍵を開けるまでは、魔術を練習し続けた。

しかし、燕が言っていたの様に魔術発動は一筋縄ではいかなかった。実際、発動に一回も成功していない。


大体、炎を出そうと強く願うシチュエーションとは?と悩み始める。

強く「炎よ出ろ」と願う。それだけのことなのに、すごく難しかった。


「おい、時間だ。出ろ」

「――はい、お兄様」

「……なんだ、お前怪我しているのか?」


ぎくり、と私は固まってしまう。

そうだ、昨日の冒険の弊害はまだ消えていない。燕にも頼んで証拠隠滅してもらうのを忘れてしまった。


しっかりと私の手足には、擦り傷が残っている。

まだ見つかっていないが、ドレスをしっかり見られれば泥やほつれも発見されてしまうだろう。


「気のせいですわ、お兄様。この部屋は暗いから影が変に見えてしまっているのでは?」

「……そうか?いや、見せてみろよ」


やばい。やばいやばいやばい。

燕に会った時とは比べ物にならないくらい警鐘が鳴る。


もしこの傷が見つかったら、身体検査をされるだろう。そうすると魔術石が見つかってしまう。そして、最悪魔術石は譲渡され――石が、死ぬ。

ぶわり、と冷や汗が噴き出すのを感じた。


その時、懐に隠した石がどくりと脈動する。

初めて石を見つけた時の様に、脈動を感じた。


そして傷跡が急に熱を持ち、エイジが確かめようとしゃがむ前に、


傷が、綺麗にふさがった。


初めての魔術の発動だった。


「あっ…!」

「なんだ、気のせいか。確かに傷があったと思ったんだが……」

「ほ、ほら無いじゃないですか!行きましょうお兄様!」


半ば無理やり連れだし、ようやく懲罰房を脱出する。

不思議そうにしているエイジを「お兄様もお忙しいと思いますので、ここで」と取り残し、自分の部屋へと帰った。

懐疑的なエイジの目と、目を合わせることができなかった。


※※※


転生初日ぶりに、自分の部屋に帰る。

生前から比べたら豪奢には違いないが、やはりほかの部屋よりはシンプルに作られている。

「出来の悪い娘に使う金はない」ということだろう。中身が一般人だから、こちらの方がありがたいが。


「おかえりなさいませ、マリア様。お召し物をお着換えください、この後ディナーの時間です」

「……あぁ、そんな時間」

「早くしてくださいね、昨日みたいに優秀なお兄様たちを怒らせることがないよう」


使用人の彼女は、昨日と同じ人物だ。チクリと棘だけさし、部屋を出ていく。

私は静かにベッドへと、腰を下ろした。


魔術の発動。夢の様にふわふわとした感覚だが、心が燃え上がるような熱もあった。


あの感覚を忘れないうちに、目の前に手を差し出す。


大事なのは、おそらく「使いたい」という思いよりも「使わなければならない」という必要性。

第一の宿題に「炎の放出」を設定した燕が、イメージしやすいテーマを選んだかと思ったが、やはり彼は肝心なところで「中立」だ。炎なんて必要になるタイミングはほぼない、私を試していたのだろう。


今まで一生懸命に想像していた燕の炎から、イメージをずらす。

3要素中の1要素であるイメージ作業を伝うなんて、燕の甘いウソ。炎のイメージなんていくらしたところで、魔術なんて使えやしない。

炎放出のイメージの正解は、「真っ暗な情景」だ。

炎が必要となる――真っ暗な情景をイメージし、そこで炎を灯したい、と願った。


ぶわり、と掌が暖かくなる。

いつの間にかつむっていた目を開けると、炎が掌の上に鎮座していた。


「やった、」


そう声を上げた瞬間、炎は消えた。

消えた理由は集中力の欠如か、魔力量の欠乏か。

それを確かめようとした瞬間、ノックが私を現実に引き戻す。


「マリア様?着替えは終わりました?」

「――っ、まだです!今着替えますわ!」

「早くしてください、お待ちしていますので」


彼女が用意してくれたドレスをつかみ、着替える。

仕方ない、ディナーが終わってから練習しよう。

そう心に決め、慌てて泥の付いたドレスを脱いだ。



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