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悪役令嬢に転生したら、亡国を立て直すことになりました  作者: のみ
第1章 魔術との出会い
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第6話 魔術の秘密

強い日差しで、目を覚ました。夜は暗くて子供なら泣き出しそうな懲罰房だが、日中こんなにも明るいことを知る。

何時だろうか。時計も設置されていないから、時間が分からない。しかし太陽がそこまで高く昇っていないことを考えると、まだ朝だと予想できた。


相変わらず扉に鍵はかかっている。昨日の大冒険で汗を大量にかいたので、早くお風呂に入りたいのに。マリアの綺麗な髪が、心なしかほつれている気がする。若干汚れたドレスも着替えたくて、トントンと扉をたたいた。


「もし。誰かいらっしゃって?」

「……うるさいぞ、マリア」

「うわっ!お兄様、いたなら言ってくださいませ!驚きましたわ。――もしかして、夜中中ここに?」

「そんなわけないだろう、僕をどれだけ暇人だと思っているんだ。お前に父様から伝言だ」


夜中、エイジに見張られていたなら燕との会話を聞かれていた。「さすがにそれはまずい」と思ったが、どうやらその状況は回避できたらしい。

ほっとしつつ、兄の言葉を聞く。


「本来ならば夜中懲罰房に入れるだけの罰だったが、パンを手掴みで食べるという蛮行をお前は犯した。それが許しがたいそうだ」

「あら、文化によっては許容される範囲です。何のためにフィンガーボールが用意されているのか、父様は分かってらして?」

「ロマン皇室では少なくともその文化は取り入れていない。それに、立ち上がってパンを丸のみしたことは完全なマナー違反だ」

「それは……否定できませんわね」

「夜まで延長だ。ご愁傷様」


エイジの足音が無情にも遠ざかっていく。私はがっくりと肩を落とした。


『こいせん』のエイジルートでは、彼が家族愛を重んじる様子が描かれていた。残虐な提案をする妹や父を不愉快に感じつつも、どこか憎み切れない葛藤を彼は抱えていた。そんな彼だから優しくしてくれると期待していたが、そこまで現実は甘くないらしい。


風呂や着替えは諦め、私は「燕」と呼び掛けた。


3秒間。その間に、私の足元に異国の紋様が浮かび上がる。私の座標を特定したのか、私を中心に円が二重に描かれた。

そして目の前に、風が巻き起こる。小さな竜巻のような旋風だが、懲罰房のどの設備も壊すことなく、そしてシーツ一枚飛ぶことはない。

暖かい空気とともに、燕が現れた。


「やあ、ずいぶん早いお呼び出しじゃないか」

「そうなの。懲罰房から朝出れる予定だったのに、延長が決定したのよ」

「――どうせまたやんちゃしたんだろう」

「ふふ、想像に任せるわ。それよりも、魔術を教えてよ」


肩をすくめた燕は、それ以上追求することもなく、存外すんなりと承諾してくれた。およそ読心術で代替の全容はつかんだのだろう。


魔術石を取り出して、という指示に素直に従う。

昨日発見した時と変わらない、綺麗な正方形の石だった。


「では、授業を始めようか。

――そもそも論から話すけど。この世界に住んでいる人間全員、魔力を持っている。俺やマリアだけが特別なわけじゃないんだ」

「全、員」

「そう。だから、『魔術付与』をしたら他の人も魔術が使えるようになる。――まあ、魔術付与の説明はまた後でするけど。ただ、人間の力だけでは、自身が持つ魔力を魔術に変換することができない、ってことが一番大事なことだ。そして、予想はつくと思うが――魔術石は、その変換機能を持つ媒介物と考えてもらえばいい」

「なるほど、納得しましたわ。じゃあ人それぞれ、魔力量にも違いが?」

「その通り。魔術付与しても大して魔術が使えない人もいれば、凡人が勇者の様にメキメキとスキルを伸ばす例もある」


成程、合点はいった。「こいせん」ではカタリアが何人かに魔術付与をし、彼らが大活躍するシーンがあったのだ。彼らがたまたま魔術を使える素養があったと考えるよりは、全員その素養があり、魔術付与によって使えるようになったと考える方が合理性がある。


「ということは、私や燕の魔力量が低い――そんなことも考えられる?」

「今の話をふまえると、そうだね。でも、この魔術石が見えていること自体、魔力量が多い証拠なんだ」

「魔力量が低い人には、この石が見えない……?」

「そう。だから安心していい。君と俺は、魔力量が十分多い」


「へえ」と頷きつつ、自分の知識と合わせて考えても腹落ち出来た。

私が今魔術石を手に入れてしまったからこそ、シナリオは変わってしまっているが、本来ならば数年後に拾われるはずだったものだ。異国の言葉が刻まれた、綺麗な石。こんなものが数年放っておかれるとは考え難い。

「嬉しいわ」と頷くと、「使いこなせなければいけないけどね」と皮肉で返された。


「魔術石の使い方は、大きく二つ。一つ目は、自身の魔力を魔術に変換し、放出することだ。

二つ目は、『魔術付与』。他人に、魔術を一定数付与できる」

「一定数――抽象的な表現ね」

「そうとしか言いようがない。魔術石の所有者の力・付与される人間の魔力量によって、どれだけの種類の魔術を付与できるかが決まってくる。

ただ、俺たちが付与できるのは『魔術を使う権利』だ。どれだけ魔術を使いこなせるか、には関与できない。そいつの努力次第ってことだね」

「へえ、魔術付与されたらすぐに魔術を使いこなせるほど甘くはないってことね」

「そう。そして、もう一つ甘くない話。僕たち魔術石所有者は、自分が魔術付与した人間の魔術行使権を、いつでも剥奪できる」


魔術行使権の剥奪。それは――かなり危険なことなのではないか。

私や燕がやろうと思えば、一国を支配することさえできる。思い通りの、裏切らない軍隊を作ることさえ可能なのだから。


思わず自分の震える身体を抱きしめる。

魔術石の所有。それは思ったより責任のあることだと知った。


「まあ、そこまで気負わなくても大丈夫。最悪、間違った方向にマリアが行ったときは俺が止めてあげる」

「よろしく、頼みますわ。できればお手柔らかにお願い」

「そういわれると厳しく止めたくなっちゃうな」


そんな軽口をたたく燕が、私を励まそうとしていることくらいわかる。

「ありがとう」と答えると、燕は少し赤くなって「……おう」と答えてくれた。


「まあ、前置きの知識としてはこれくらいだ。あとは使える魔術の種類を増やして、使いこなせるように魔力量を増やしていこう」

「魔術の種類を増やす、ねえ。――貴方の場合、師匠はいなかったのでしょう?どうやって魔術を覚えたの?」

「感覚だねえ。けがを治したい、とか掃除したい、とか願いを魔術石に込める」

「――やり放題じゃない」

「そう、やり放題。だけど大抵は魔術に変換できないで終わる。自分が使える魔術を『作る』には想像力と、魔力、そして強い願いが必要でね。この3要素を揃えるのがなかなか大変なんだ。

だから俺が実際に魔術を行使して、想像力の要素は補ってあげる」

「まあ、ありがとう!助かるわ。ちなみに、燕が使える魔術の種類は?」

「10000は越えているから安心して。マリアの師匠としては十分だろう?」

「いちまっ……。貴方、大魔術師だったのね」

「君、僕のことをどう思っていたのさ」


ヤンデレ魔術師、なんて口が裂けても言えない。

笑ってごまかすと、燕にぐしゃぐしゃと髪をかき回された。


「変なことを考えているのが丸わかりだぞぅ!仕方ないレディだな。


さて、時間もない。そろそろ君の御父上がここにやってくる。その前に君の師匠として最初の魔術をお見せしよう」


燕は手を目の前に差し出す。手のひらからは、柔らかい炎が放出された。


「すっごい…!」

「宿題だ、次会う時までにこの魔術を身につけなさい。イメージはできたろう?魔力は十分ある、あとは強い願いだけだ。

報酬は、次会った時にまとめていただこう。では」


「お父さんに石をくれぐれも取られないようにね」と忠告を受け、慌てて石を懐にしまう。

暖かい風が吹き、燕は消えてしまった。


燕を師匠にすることができてよかった。

魔術行使において3要素が必要な中、1要素を補ってくれるのはありがたい。炎や氷などは分かりやすいが、時空操作のイメージなんてさっぱりだ。何を想像したらいいのかもわからない。彼のおかげでずいぶん楽に行使できる魔術の種類を増やすことができるだろう。

それに、思っているよりも魔術行使が厳しいことが理解できた。おそらく使える魔術を増やしたところで、強い魔術を使えるかどうかは別。魔術付与と同じ理論で、そこから特訓が必要になるだろう。


しかし、この世界で生き残るために私は頑張らなければならない。

生前での不幸を見返すくらいに、幸福になる必要があるのだ。


私が内心ガッツポーズした時、扉が静かにノックされた。


「話がある」


「こいせん」のラスボス。この世界一の悪『バッハ=ファントム』が、姿を現した。


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