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悪役令嬢に転生したら、亡国を立て直すことになりました  作者: のみ
第1章 魔術との出会い
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第3話 OLは早速、シナリオを壊しにかかる

『恋する★戦乙女』、略して『こいせん』。

ふざけたタイトルのこのゲームだが、発売当時は多くの女性高校生たちを魅了した。

私もその一人で、無我夢中でこのゲームをプレイした。今でもその記憶は残っていた。


ヒロインのカタリアは、サザマーニュ国の伯爵令嬢。純粋な彼女は、宰相の兄を助けながら平穏な生活を行っていた。

しかし、隣国のロマン帝国にて不穏な動きが始まる。もともと階級制が強いロマンは、「奴隷」身分への圧力を強め、奴隷貿易で巨万の富を生み出した。そのお金を軍事力につぎ込み、様々な強力な武器を揃え始めたのだ。

そうなるとサザマーニュとしては黙っていられない。隣国がいつ攻めてきても対応できるように、騎士団に金をつぎ込み始めたのだ。

そんなサザマーニュを危険視したロマン帝国・皇帝『バッハ=ファントム』は、サザマーニュの戦闘部族を襲い、武器を奪った。それがサザマーニュの怒りを買い、ロマン帝国を攻める決定が下される。


ヒロイン・カタリアの兄は最後までその決定に抗っていたが、皇帝命令により決定は覆らなかった。宰相であるカタリアの兄が反対した理由――それは、ロマン帝国の第一皇女マリアに惚れていたから。

宰相として優秀だった彼は、しかし色恋沙汰に弱かった。そのため、宰相としては絶対にとってはいけない行動をとる。

彼は隠密にマリアに会い、「奇襲が起こるから逃げろ」と伝えてしまったのだ。マリアが情報を漏洩しない、そう信じて。


しかしマリアは皇帝の父にサザマーニュが攻め込んでくる事実を伝えてしまう。

父親に虐められていたマリアは、少しでも父親に認められたかったのだ。


そのせいでロマン帝国が反撃の準備をし、サザマーニュの奇襲は失敗に終わった。

ロマン帝国は領土を拡大し、奴隷生産国として悪名を轟かせた。サザマーニュから何個もの村がつぶれ、何人もの人が奴隷として連れ去られた。宰相は、自分の軽率な行動を悔やみ自殺した。


そんな乙女ゲームとしてはかなりハードな設定を背負いながら、ヒロインはロマン帝国を倒すべく立ち上がる。彼女の切り札は、偶然見つけた魔術石。魔術が一般的でないこの世界で、魔術が使えることは大きなアドバンテージだった。

彼女の勇気や、心の美しさに惹かれて攻略対象たちは協力する。そして全員で協力してロマン帝国を倒し、ハッピーエンド。そんなストーリーだった。


兄、エイジ=ファントムは皇帝バッハの片腕として、帝国軍を指揮する。そんな彼に残虐な提案をするのが、第一皇女・マリアだった。マリアは父親に認められることがうれしく、エイジが実行を躊躇っている残酷な提案をどんどんと父親の前で口にする。父親が気に入るその提案を実行しないわけにはいかず、エイジはしぶしぶ指揮をする。自分の手を下さず、エイジの後ろで高笑いをしている彼女にどれだけ殺意を覚えたことか。


そんなストーリーの面白さ、攻略対象の多さ、そして絵の綺麗さに当時女子高校生たちは夢中になった。

そんな世界で二度目の人生を送れるというのは、幸運なのか不幸なのか。イケメンに囲まれるのは眼福極まりないが、彼らからは殺意を向けられる役目だ。まったく、嫌になる。


頭が痛くなるのを感じつつ、マリアは手を動かした。

懲罰房でやらねばならないこと――それは、閉じ込められているこの間に外に出ることだ。

セキュリティが低い今のうちに、この城を出る必要が私にはある。


いきなり異世界に転生されて正直泣きたいし、今すぐベットに行きたいが、今この行動をとらなければ悪役令嬢になって討たれて終わる。それだけは嫌だった。


私はか細い月明りを頼りに、壁のレンガを押していった。

この懲罰房は、あくまで皇室の人間が入るものである。だからこそ造りも強固に設計されていない。壊れている部分があっても、修理を後回しにされるケースが多いのだ。


そしてゲーム中、宰相であるカタリアの兄は懲罰房でマリアと密会していた。レンガのどこかに、成人男性一人入れるくらいのレンガが壊れた隙間があるはずなのだ。

一見しっかりとした造りに見えるが、きっとある。そう信じてレンガを押していくと、懲罰房に置いてある机の影にゴトリと動くレンガを見つけた。


静かに、レンガを外に抜いていく。そのレンガを端緒に、周りのレンガも動いていく。

何本か抜いて女の子一人通り抜けられる穴を作ると、その穴から外に顔を出した。


ゲームではわからなかったが、この懲罰房は地上3階に位置していた。なかなかの高さである。こちとら6歳だ、落ちたらたまったもんじゃない。

しかし、都合のいいことに目の前に大きな木があった。宰相はきっとここから登ってきたのだろう。生前木登りを得意としていた野生少女だったこともあり、このルートがあるのは好都合だ。今のマリアの身体で対応できるかは怪しいが、木登りはコツだ。きっと行けるだろう。

しかし木までやや距離があるため、犬歯でシーツを破ってロープを作った。いつか脱獄映画で見た、足掛けのための結び目もきちんと作ってある。


窓枠にシーツ製ロープを結びつけると、振り子の原理で木まで近づく。

木の枝を握るも、冷や汗で滑り、1回目は失敗した。下を見てしまい、冷や汗がひどくなる。

しかししがみつき続ける体力もない。勇気を振り絞って壁を蹴り、木の枝にしがみついた。幸いにも木は、6歳の身体を支えてくれた。


木にさえ飛び移ることができれば、こっちのものだ。生前覚えた木登り技術でするすると降りていく。マリアの大切にされてきた身体は生傷が付き、疲労感も強かった。生垣の隅で、邪魔にならないようそっと座って休む。

眠たくなるお子様ボディに鞭を打ち、10分ほど経ってから立ち上がると、周囲を伺った。


本来ならばこのような計画は、何日も練ってから実行した方がいい。それが定石だ。

しかしこの世界でのそのそしていたら、1日ごとに軍事力が強化される。衛兵だってどんどんと増えていくのだ。


とはいえ、少ないが衛兵は存在する。プロの彼らを欺くのは難しいため、小さい身を活かして隠れながら、ある衛兵を探した。

ロマン帝国の衛兵とはいえ、一枚岩ではない。国のために戦っている衛兵もいれば、金のために戦っている衛兵もいる。探しているのは後者だ。


ロマン帝国を攻めこもうと策を練るとき、カタリアは情報を得ようとロマン帝国の衛兵に身分を隠してアプローチした。その時金と交換に情報を流した衛兵が、ゲームで立ち絵になっていたのだ。名前まで紹介されていなかったはずだが、ゲームをやりこんだだけに顔だけは何となく覚えている。

30分ほど探し回ると、彼を見つけることができた。というか、持ち場で立ったまま寝ていたので彼だとすぐにわかった。彼の横をそっとすり抜ける。


そして城下町を見ようとした、瞬間。

目の前に男が立っていた。


「こんにちは。レディがこんな俗世になんのようで?」


あぁ、やばい。もっと考えて行動すればよかった。そう、頭が警鐘を鳴らす。

端正な顔立ちに、紫色の瞳。長く黒い髪は三つ編みにしており、顔の横にゆるく結んでいる。

彼の名はえん

カタリア以外に魔術石を持つ、魔術師の一人にて――攻略対象の一人。


そして、バットエンドが一番多い男。

悪役令嬢であるマリアも、彼に何回も殺された。


燕は、紳士的な態度で手を差し出す。

一切笑っていない笑顔で。

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