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悪役令嬢に転生したら、亡国を立て直すことになりました  作者: のみ
第1章 魔術との出会い
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第10話 お披露目会

それから数日、私は書庫と部屋を往復する日々だった。

数日後に控えた「お披露目会」のため、やるべきことはたくさんある。家庭教師からマナーを叩き込まれ、社交ができるよう外国語を必死に学んだ。

空いた時間には燕を呼び出し、魔術の特訓をする。もしくは書庫で経済・地理・歴史を学び、最低限の知識を身に着けた。


毎日やることが多く目まぐるしい日々だったが、いいこともあった。ダリアに頼んでいた茜染めのドレスが完成したのだ。

職人が丁寧に仕事をしてくれたらしく、夕日の様に綺麗な紅色だった。シンプルな作りのドレスだからこそ、その燃え上がるような色は引き立ち魅力的に映る。「綺麗!」と歓声を上げた時のダリアの顔は、なんとも得意げなものだった。


茜染めはまだこの世界に普及していないため、これから特産品にするつもりらしい。茜自体が田畑で育てるような繊細なものでないため、荒れた土地のロマンでも生産は可能だという。「お披露目会の場で他国にもアピールしてきてくださいね!」と詰め寄るダリアの副音声(「僕のビッグビジネスなんですから!絶対に宣伝成功してください!!」)が聞こえるようで、私は苦笑しながら「頑張るわ」と答えた。


レベッカとの関係性は、残念ながら変わっていない。唯一の変化といえば、私が彼女の名前を呼ぶようになったことくらいだ。

私の手を振り払った直後は、皇族に叱られることを予期してか震えることも多かったが、次の日からは用件人間に戻っていた。皮肉も健在だ。しかし私の人間性を否定するような皮肉はなくなった気がする。

どうせレベッカとは長い関係性だ、地道に距離を詰めていけばいいだろう。


そんな日々が目まぐるしく過ぎ、とうとうお披露目会の日となった。父様からは「恥をかかすな」としか言われていない。どうせ娘に興味がないあの父は、ドレスさえ見ていないのだろう。あの茜染めを一目見たら何か言ってくるはずである。


会の30分前にエイジが迎えに来てくれ、「行くぞ」と声をかけてくれた。

エイジに、初めて茜染めのドレスを披露する。

「……馬子にも衣装だな」と可愛くないセリフが返ってきて、思いきりエイジの足を踏んでやった。


「……痛い」

「妹の可愛い姿を馬に例えるなんて。お兄様、紳士失格ですわ」

「そのドレスはどうした?異国のものか」

「もう、都合が悪いところはスルーして!

このドレスは、茜染めという手法で作られたものですわ。これからロマン帝国の特産品になるものです」

「そうか。綺麗な色だ、いい商人に出会えたんだな」


兄は珍しく、その目尻を緩ませる。そして右手を軽く差し出した。

私は「えぇ!」と答え、その右腕をつかんだ。


※※※

【サザマーニュ国宰相:アントーニョ視点】


正直その日、僕はお披露目会に嫌々参加していた。

『隣国との友好関係を諸外国にアピールする』――そんな名目はあるものの、実際にサザマーニュがロマンと友好的になりたいわけではない。あんな経済が破綻しかけている国、誰が友好的になりたいものか。

しかし軍事力だけは馬鹿みたいに強いため、平穏を保つためにも父様にお披露目会に参加するよう命令された。仕方ない、寝ないように頑張ろうという低いモチベーションで参加していた。


しかも『ロマン帝国のパーティ』というだけで嫌なのに、億劫さに拍車をかけるのが主役の第一皇女だ。第一皇女が無能という話は、諸外国にも伝わっている。そんな人間にいくら媚を売ろうが、意味がないことなんて明白だ。それが分かっているからこそ、貧乏ゆすりをしながら入場を待った。

周りの人間もそうだ、あからさまに気がない顔をしている。挨拶さえ済めばすぐに帰るつもりなのだろう。


そんな空気が、彼女の登場で一変した。


絹より綺麗な透き通るプラチナブロンドに、青い海のような瞳。

白くて一切曇りない肌は、真珠のようだ。

そして、燃え上がるような紅色のシンプルドレスは彼女の魅力を引き立たたせる。


騒がしかった会場は一気に静まり、口を閉じた。

「完璧な美」が、そこにあった。


「こちらが我が第一皇女、マリア=ファントムだ。まだまだ未熟だが、皆さまお見知りおきを。

マリア、自己紹介を知ろ」


皇帝バッハの紹介で、マリアが前に出てくる。

天使のごとき彼女の瞳は大きく、零れ落ちそうだ。


発した彼女の声は、弱弱しい声かと思ったが――凛とした、はっきりとした声だった。


「初めまして、マリア=ファントムです。この国の第一皇女にて、国民の幸せを願う者です」


その言葉とともに、見事なカーテーシーを披露する。

会場の大半はその姿に見惚れていたことだろう。


彼女はぐっと前に出た。


「私はこの大事な日に、国旗の色である赤を身に着けたいと思い、赤色のドレスを選びました。我が国の国旗の赤色が意味するのは、国民の血だそうです。それを知ってもこのドレスを着たのは、皆さんと一緒に私はいるという意思表示です」


彼女は淑女のマナーを破り、両足を大きく広げて胸を張る。

戦乙女のような姿に、「無能」の前評判などかき消えていた。


「このドレスは、我が国の職人が作ってくれたものです。燃え上がるようなこの色は、この帝国の民の魂をよく表しています。そして私の魂も、貴方たちと常に供にいます。それだけは覚えていてください。

民とこの国に、幸せがありますよう」


彼女がお辞儀をする。

どこからか起こった拍手が伝播し、大きな拍手へと変わった。ロマン帝国の国民なんて、立ち上がって拍手している者さえいる。

皇帝バッハの挨拶後よりも拍手は大きく、彼が不愉快そうな顔をしていたのは気づかなかった。


諸々の挨拶が終わり、社交の時間となる。

第一皇女は社交界デビューもまだのため、ダンスはしないが、参加だけしてくれる運びとなった。


あの堂々たる挨拶をした第一皇女の周りにはたくさん人が集まっている。挨拶の列ができ、僕もその列に加わった。

『彼女に一目ぼれしてアピールしたい』――そう思っている人が半分で、もう半分は彼女の挨拶に知性とカリスマを感じ取った人間だろう。彼女のスピーチには人を惹きつけるカリスマが備わっていた。ただの6歳がだ、そんな彼女を青田買いしたいという人間は多い。また商売や経済を齧っている人間なら、彼女がスピーチの中でドレスを宣伝していたことくらい気づいただろう。その強かさは嫌いじゃない。

僕も彼女の知性と魅力に惹かれ、彼女と話したいと感じた。


しばし待つと、彼女と挨拶できる順番が回ってくる。近くで見る彼女はやはり非常に綺麗で、震えそうになる足を抑えつつお辞儀をした。


「初めまして、お会いできて光栄です。私はサザマーニュ国宰相、アントーニョ=テイル。どうぞお見知りおきを」

「さいっ、しょう……!」


先程までにこやかに対応していた彼女の顔色が変わり、目を見開く。彼女のかわいらしい唇がふるふると震え始めた。


「……?どうかしましたか、レディ」

「い、え!何でもないのです。失礼いたしました。

私はマリア=ファントム。是非サザマーニュ国とは友好的な関係を結べるよう、期待していますわ」

「こちらこそ」


何か彼女を動揺させてしまったらしいが、挨拶ができてよかった。最初は億劫だったが、父の命通り参加してよかったと思う。

僕はその後諸外国の要人と少し話し、帰路についた。

彼女と出会えただけで、行ったかいがあった。そう思うと、自然と頬が緩む。


「お兄様、おかえりなさいませ!……何か楽しそうですね、行く前はあんなに嫌がっていたのに」

「あぁ、ただいまカタリア。そうなんだよ、楽しいことがあったんだ。

ロマンの第一皇女――あれは中々の器だぞ」


そういえば、お前と同じ歳らしい。そう伝えると、カタリアは「へえ」とのっぺりした声を出す。喜怒哀楽が激しい彼女には、珍しい返答だった。


「どうした?」

「……いえ、何でもないのです。聞かせてください、そのお姫様の話!」


いつもの子供らしいカタリアに戻り、僕の手にしがみついてくる。

「ソファで話そうか」と彼女を促し、僕は今日起きた楽しい出来事をカタリアに語った。


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