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冒険者ギルド

 町を離れた近郊の草原で木の棒がぶつかい合う声がした。


 「もっと速度を上げろ!」


 アロンが声を上げてメリッサに指示を出すと共に彼女の攻撃を防いでいく。


 「はい!」


 メリッサは返事をしながらアロンに攻撃を仕掛ける。アロンの防御は鉄壁のように固いが少しずつメリッサに体勢を崩させられている。

 その中、メリッサはこのまま行くとアロンから一本取れるかと思いつつ、アロンが隙を見せる機会を窺っている。そしてその機会がついにやって来た。

アロンが握っていた木の棒はメリッサに撥ねられて手から飛んだ。


 「もらいましたね!」


 メリッサは思わずそう大声を出して口の両脇を上がらせて笑みをこぼした。彼女は素早くアロンとの距離を詰めて足を地面に力強く踏んで跳んだ。上空からそのままとどめを刺すつもりでいただろう。

 しかし、彼女の足が地面から離れる瞬間、アロンは瞬きの間にしゃがんで右足で薙ぎ払った。メリッサは足が蹴られて重心を失いまま、彼女は重く地面に転がってアロンに拘束してしまった。


 「うっ……。」

 「だから接近戦において跳ぶのは絶対禁物って何回言わせるんだ。これは癖しかいわないな。」

 「ご…ごめんなさい……っ。」


 アロンに拘束されていて地面に押し込まれたメリッサは息を切らしながら彼に謝った。


 「いつも意気に乗るとこの悪い癖が出てくるね。本当に注意しないと。それにさっきもわざと隙を見せたから。」


 アロンはすこし息を吐いた。


 「メリッサ、君まんまと引っ掛かられたのね。これも注意すべきだな」

 「うっ……はい……。」


 メリッサはちょっと落ち込んだみたいで目を半眼にして下を向いた。その彼女を見てアロンはメリッサを解放して立たせるのを手伝う。そして手でメリッサの肩を叩いた。


 「でもそれを除いてもう上出来だと思う。」


 しかしメリッサは納得いかない様子だった。


 「今日はここまでにしようか。」


 そのメリッサを見てアロンは苦笑しながら言った。


 「……ご指導ありがとうございました。」


 「しっかし、早いなー。君を拾って来てもう一年ちょっと経つか。」


 アロンは近くに置いてある鞄から水筒を持ち出しメリッサに渡す。メリッサは一気に水筒の水を半分くらい飲んだ。


 「ぷはっ、そうですね。本当に早いです。」


 そして続く。


 「でも最初は護身術のお稽古する予定ですが、なんで接近戦の仕方まで教わったんですか?」

 「うん?ついでにだが?」


 太陽は晴空の真ん中に昇ったからアロンは近くの日陰まで歩きながら答える。メリッサはそんな彼の後ろについて歩き出す。木の幹にもたれたままに腰をかけて鞄の中に作っておいたサンドイッチを取り出した。


 「昼ごはんにするか。」


 アロンはメリッサの分を彼女に渡した。


 「ありがとうございます。」


アロンの隣に座り込んだメリッサはそれを受け取って彼に質問した。


 「これいつ作ったんです?」

 「今朝だ。たまたま君より早く起きていたから代わりに作ってあげた。」

 「そうですか。だから朝の時は昼ごはんは作らなくていいって言いましたか。」

 「そういうことだ。」


 メリッサは視線をアロンから離れて手に持っているサンドイッチに戻してボソボソ呟いた。


 「お料理できるんですね……意外……。」

 「何か言った?」

 「いえっ、い…頂きます!」

 「頂きます。」

 「そういえばメリッサの共通語のレベルももう平気みたいだし、そろそろ冒険者ギルドに行って冒険者として登録するか?」


 パンカスを手から落としつつ、アロンはメリッサに以前話した冒険者ギルドの事を持ち出した。


 「木を隠すなら森って言っていましたが。うまく行くでしょうか?」

 「それは大丈夫と思う。言葉はばっちりだし、この一年もここの常識を覚えたしそれにその笠があって顔が見られない。万が一何かがあっても目が見られない限り言い訳はいくらでもある。」

 「……分かりました。」


 メリッサは頭を縦に振って理解したとアピールする。

 彼女が食べ終わるまで待って、そして残ったサンドイッチの紙を片付けてからアロンは立ち上がってあくびをした。


 「ん~~~~~~、じゃあ早速行こうか。」

 「はい。」





 冒険者ギルドのドアを開けてすぐ、たくさんの人が騒いでいる声が風みたいに二人を襲い掛かった。賑やかな風景がメリッサを襲う。彼女の目の前にあるのはテーブル席で酒で盛り上がってガヤガヤしている騒がしいドワーフ達、度々ドワーフをチラッと見て嫌がっている顔をしていたり、パーティーの仲間達と面白おかしく世間話をしたりする美しいエルフの人達、ギルドの隅で密かに何かをたくらんでいるように見える小さなホビットの群れ、そして人数が最も多い人族の冒険者達が行き来してて皆忙しそうに見える。単一種族のパーティーがいる、複合の種族が組んでいるパーティーもいる。それらが混ざって冒険者ギルドという図が出来た。


 「今日も騒いでるな。」


二人は受付まで歩いて人族の受付さんに声を掛けられた。


 「いらっしゃいませ。アロンさんではありませんか。最近はあまり顔出ていませんから心配しましたよ。」

 「悪い、最近ちょっといろんな事が入ってて忙しいんだ。」

 「……変な事に首を突っ込んでいるではないでしょうかね?」


 受付さんは顎を少し納めて上目使いでアロンを見つめる。


 「ない、ない。」


 アロンは気楽な気分で右手を左右に振った。


 「そうだといいですけど……。では、本日はどのようなご用件を?」

 「今日はこいつの冒険者登録のために来たんだ。」


 アロンはメリッサを前に押し出す。


 「……よろしくお願いします。」


 受付さんはメリッサを一瞥して視線をアロンに戻した。


 「そうですか。いつも一人ぼっちのあなたとしては珍しい事ですね。」

 「一人ぼっちじゃない!ソロだ。」

 「同じ事ではないですか?」


受付さんは苦笑して話を続く。


 「それで彼女は?」

 「遠い親戚から急に頼まれて彼女をむりやりオレに押し付けた。何かわけがあっただろう。で、彼女は最近オレと一緒に冒険者をやりたいって言うからつれて来た。」

 「……そうなんですか。」


 何か言いたげの受付さんはもう一度メリッサを一瞥して、最後は何も言わない事にしたに決めただろう。引き出しから一枚の紙を取り出した。


 「分かりました。文字の読み書きは出来ますか?」

 「問題ありません。」

「ではこの登録手続き用紙のここ、こことここを記入してください。」

 「はい。」


 メリッサは自分目の前に差し出した紙を受け取って書き始める。


 「しかし、アロンさん。いいんですか?冒険者は危険なお仕事って事は百承知と思いますが?彼女はどう見ても子供ですよ。」

 「大丈夫だ。こう見えても彼女はそこらへんの新米冒険者より腕前はいいぞ。なんせオレが鍛え上げたからな。」


 ドヤ顔を見せるアロン。


 「それでは心配ないでしょう。貴方は『ああいうのに興味津々』を抜きならお腕前はなかなかですから。」

 「それ……褒めてないよね?」


 そう聞いてきたアロンに対して、受付さんはメリッサの書き具合を伺うようとその質問をスルーして彼から目を逸らした。


 「何か問題でもありましたか?」

 「いえ、最後はここでサインして終わりですね。」

 「はい。」


 メリッサから書き終わった登録手続き書を受け取った受付さんは少し受付から離れて手続きを進める。暫くして彼女は一枚のカードを持って戻した。


 「では説明します。」


 カードをメリッサに見せながら受付さんは説明する。


 「まずはこちらのカードは冒険者カードになります。身分証明書にもなり得るから失くさないように。そして何かがあった時の身元照合などにも使います。続いてギルドは等級制度がありません、でもクエストの受付は個人或はパーティーの過去の成績を考量し適任かどうかを判断してから承認する。」


 ここで受付さんはいったん言葉をやすめてから続ける。


 「クエストに関してはパーティーの人数によって受けられる種類も変わります。例えばそこのいつも一人ぼっちのアロンさんが受けるクエストはほぼ採取、探索、地図作成、スライムなどの弱い魔物の退治クエストしか受けないです。」

「だからソロだっつうの。」

 「しかし、二人組のパーティーとなれば低位魔族や魔物に関わるクエストが始めて受けられる事になります。ちなみに中位は五人組以上から、高位の魔族と魔物になれば十人以上のパーティーが必須条件ですね。」

 「魔族……。」

 「どうなさいますか?」

 「あっ、いえ。何でもありません。」

 「以上でカードとクエストの説明は終わりです。何か問題でもありましたか?」

 「大丈夫です。」

 「はい。ではクエストはあちらの掲示板に掲載されています。受けたいクエストの表紙をここに持って来て私が登録して差し上げます。そしてクエストを完了させたらこの表紙に報告書を書いて提出してから報酬金がもらえます。以上で問題は?」

 「ありません。」

 「分かりました。これで手続きは終わります。今後のご活躍をお祈りしています。」

 「……緊張しましたー。」


 メリッサは手を胸に当てて息を吐いた。


 「平気だって。」


 アロンはそう言いながら掲示板の所に歩いて足を止めた。


 「さぁ、君の初クエスト行きましょうか。これから二人組が必要条件としたクエストがやれる。」

 「そうですね。」


 アロンは掲示板のクエストを見て暫くして左側の眉を吊り上げた。


 「おっ?手始めにこれをするか。」


 そして一枚のクエストを掲示板から取り下ろしてメリッサに見せた。



            ≪廃墟周辺のゴウン蜘蛛掃討≫


発注日付:太陽神暦1148年4月7日

依頼者:なし


クエスト内容:

 以前討伐隊を出して退治した狼人間の集落の廃墟に瘴気が寄せ集めてしまい、今はその辺りはゴウン蜘蛛の群れがそこに住みつけていました。

 そこは町にそう遠く離れていません。その上、ただでさえ危険性のある魔物だけれども、今の時期はそれらの繁殖期となっているから、普段より一層凶暴化しています。その周辺は本来、スライムしか出没しませんので、幾人の駆け出し冒険者の被害が出ています。

 クエスト要求はそこに向かってゴウン蜘蛛を退治することです。


報酬金:3000s/匹



 「これは…。」


 そのクエスト内容を記している用紙を見てメリッサの顔に雲が付いた。


 「これはいいチャンスになると思う。蜘蛛を退治してからご両親をちゃんと埋葬してあげて。」


 声を低めてアロンは考えを話した。


 「……はい、そうですね。」

 「それじゃあ、ゴウン蜘蛛の糸は劇毒だから解毒剤などの必要とした物を揃いに行く。あっちに座ってて待って頂戴。すぐに戻るから。」

 「分かりました」





 二階にいるテーブル席に指差したアロンは品揃えのため冒険者ギルドの地下室にあるギルド所属の雑貨屋に行った。

ギルドの二階で座っててボーっとしていながらアロンを待っているメリッサの向こうから誰かに声を掛けられた。


 「あなたぁ、獣の臭いがしますねぇ。」


 その声は糸みたいに軽くて柔らかい。いつに空気の中に消え行ってもおかしくないくらいだ。


 「えっ!?」


 メリッサはびっくりして勢い良く顔を上げてその声の持ち主を見た、そして目を丸くした。目の前に立っているのはエルフの女性だった。エルフなら必ず持っている長くて細い耳。加えて深海のような青色の短いボブの髪型、青を帯びた緑色の瞳、そして綺麗に整っている顔。細長い体は皮鎧を着ていてその上に短い分厚そうな褐色のケープフードを羽織っている。

初めてエルフを見るとき、メリッサは彼らと彼女らの美貌と美しさに驚いたけど今は慣れてきている。しかし目の前のエルフ女性は綺麗の上に何か違うと感じていた。


 (何でしょう?今まで見たエルフ達と雰囲気が違う。)


 戸惑っているに見えるメリッサに彼女は微笑んだ。


 「ふふっ、ごめんなさぁい。私はベシア・ムーアです。気づいているでしょう?私はほかのエルフと違うって事。鋭いですねぇ。そう、私はハイエルフですよ。」

 「ハイ……エルフ?」

 「はぁい、普通のエルフより遥かに秘めた魔力量が多くて、ほぼ全員が魔法使いでそれが天職みたいなエリートな存在なのですよ。」


 ベシアは嬉々と自分は普通のエルフより優れているのをアピールした。


 「が、私は見ての通りレンジャーですけど。魔法は好まないからやめたってわけ。」

 「そう……ですか。」


 彼女の勢いに飲み込まれてメリッサはそれしか言えなかった。


 「それで私に何か用ですか。」

 「そうね、あのいつも一人ぼっちのアロンが珍しく人とパーティーを組み始めたなんてねぇ。その子が一体どんな子なのか気になって見に来ました。しかし……。」


 ベシアは顔をメリッサに近づいてその虫の垂れ衣を見透かせようとする。


 「あなたねぇ、何でそんなものを被っていますか?あいつの真似事?」

 「……そういうわけじゃないですが。」

 「じゃあ、外してちょっと顔見せてもいいですよねぇ。」


 そういいながらベシアはメリッサの笠を掴んで外そうとする。


 「い…いやです……。」


 メリッサは外させないと必死に笠を押さえる。


 「いいから、いいから、減るものじゃないではないですか。」

 「だからいやはいやです。」


 二人は綱引きのように張り合ってて誰も譲らない。


 「もうーあなたいい加減にして!」


 その時、ムキになっちゃったベシアの肩が誰かの手に捉まれた。


 「ベシア、君こそいい加減にしろ。」


 彼女ははっと我を返してその手の持ち主に振り向いた。


 「あらぁ、アロンじゃないですか。ご機嫌よ。」

 「はーー。ベシア、君何しに来た。」

 「あなたが連れてきた子を見に来たんですよ。」

 「お知り合いですか?」


 開放されたメリッサはベシアを恐る恐る見ていてアロンに聞いた。


 「まぁー、たまに彼女に物作りを頼んで行くだけだ。それで?さっきのはなんだ?」

 「彼女がその変な笠を被ってて顔を見せようとしないから、逆に見たいじゃないですかぁ?」

 「やめとけ、彼女は顔に酷い傷跡があったから見せたくないんだ。」

 「そうですか。」


 ベシアはその一言言って目を斜めでメリッサを見てから何かを思い付いたようだ。


 「ところで、あなたの名前はまだ聞いていませんねぇ。」

 「メリッサです」

 「そうですか。よろしくお願いしますねぇ。それじゃあ、私はこれで。ご機嫌よ。」


 それを言いベシアは背中を見せて一階に降りようとするがメリッサに呼び止めた。


 「ま……待ってください。」

 「なにかありますか?」

 「あのっ、さっきのはどういう意味ですか?」

 「さっきって?」

 「私が獣の臭いがしますと言いました。」

 「あぁー、あれはただ貴女を見て、そして私に与える感じを適当に言っただけです。真に受けないでください。」

 「そうなんですか?」

 「ええ、また何かあります?」

 「いえ、ありません。」

 「ではご機嫌よ。」


 ベシアの姿が消えるまで目で送って、メリッサは大きな息を吐いた。


 「……ばれたと思いましたよ。」

 「ハイエルフはそういうのに鋭いからな。あれはただ人が彼女に与える印象的なもんだから彼女は本当に君の正体を知ったわけじゃない。」

 「それならいいですけど……。」


 メリッサはまた一息を吐いた。どうやら結構心配したそうだ。


 「でも獣の臭いねぇ。ぷふっ」


 アロンは思わず笑いをこぼした。


 「あっ!笑いましたね!やめてよ!結構緊張してましたよ。」

 「ごめん。まぁー考えても仕方ない。必要な物も揃えたし、出発しようか。」

 「……もう。」


 歩き出したアロンの傍に駆けつけて、二人は冒険者ギルドを後ろにした。


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