密かに町へ
こうしてメリッサは袋の中に隠れていてアロンと一緒に町に行った。街を守る城門を見えた頃、アロンは小声でメリッサに注意した。
「声は出さないように。大丈夫、オレがなんとかする。」
しばらくして、城門に着いた。そこで町に入る手続きを担当している衛兵に声掛けられた。
「お前その袋、またなにか拾ってきたか?ほどほどにしろよ。ほら、中見せろ。」
「別にたいした物じゃないけど。」
アロンは袋の中を見せた。
「これは?」
衛兵は袋の中にある石を見る。
「点火に使える石だよ。」
「ふむ……、確かに何ともないみたいだ。よし、通っていいぞ。」
アロンはお礼を言って、町に入った。
「オレの家に着いたよ。出て大丈夫だ。ごめん、ちょっと散らかして。」
アロンは袋の中に手伸ばしてメリッサを抱き上げて椅子に座らせる。そして薬を取ってくる。メリッサはその間周りを見回始める。
部屋の中の物沢山あってそして変なものも沢山いる、シングルなベッドひとつ、古くて外見はちょっと錆びている箪笥、木製の机と椅子二つ、それと棚の上に何か入っているか分からないビンだらけ。本は隅で山のようになっている。一周してメリッサは小声でボソボソ呟いた。
「この人は村を焼いた人達と違うかと判断したけど……外れた?そうだったらどうしよう……。」
自分はもしかして騙されたって事を考えないでいられない彼女。
「えっ、いまなんて?」
アロンはメリッサに反射的に返答したが、言葉が分からないから二人は向きあって何も話せなかった。
「あっ、あった、あった。捻挫はやっぱりこれしかないな」
アロンはそう言ってねばねばな緑色で少し褐色を帯びていてはっきり言い表せない何かをビンの中に取り出してメリッサの方へ近寄る。その気持ち悪い何かを見て彼女の目に警戒の色が付いていて椅子から降りて後退りする。
「いや!近寄らないで!」
メリッサは足がアロンに捕まって足掻こうとしたが、結局それを塗られた。
何もなかった。
「ほら、もう大丈夫。これで一日で治れるよ。すごいだろう。」
彼は何を言ったか全然分からないけど、嬉しい気持ちだけが伝わって来る。包帯を巻いてくれている彼を見て、気持ちは少し柔らいた。続いて彼に他の傷も手当された。
「よし、これでオッケー。君、これからどうする?」
また紙と筆記道具を取り出して、アロンは絵描きと手勢をあわせてメリッサを分からせようとする。しかし伝わってないみたいで彼女は頭を傾げた。アロンは少し考えて絵描きなおして、またメリッサに見せた。彼女の顔から雲が付いていて頭を横に振った。
「そうか。じゃあ暫くここで居候する?大丈夫、安全はオレが保障する。」
アロンは自分に指差して、新しい描いた物を見せた。考え込んでから彼女は頭を小さく縦に振った。
「わかった。それなら先ずは言葉だな。言葉が分からないといろいろ不便だし、外にも出られない。」
アロンはその本の山に移って何かの本を探している。
「ないな……さすがに普通だったら語学の本はおいているわけないね。ごめん、今すぐ言葉を勉強する本を借りてくる。いろいろあってもうへどへどでお腹すいただろう?待っている間にこれを食べて。」
棚から干し肉を取り出してメリッサに渡したからアロンは出かけた。
アロンは街を歩きながら考え込んだ。
(うん……。後先考えないで魔族をひろっちゃった。これってクルセイダーと教会の連中にばれたら絶対にまずいじゃない?しかし、魔族だけで殺すのは忍びない。相手が子供ならなおさらだな。)
あれこれを考えている間に図書館に到着した。階段を上りながら、思い付いたことがあった。
(あっ、そうそう。それと彼女のその目を隠すものを探さなきゃだめだな。あの金色の目は狼人間の特徴的な物だから他の誰かが見たら大変なことになる。)
それを考えながら探したい本を探す。
(うん……、何かいいものがあるかねぇ。兜は嫌がるでしょうし、女の子だからな。ならフード付きの衣服とか?)
図書館の一階に語学の本はないようで、二階に上った。
(それならいいかもしれない。じゃあ様式はケープフードでしようか。)
語学の本は二階の中央の本棚で見つけた。アロンは役に立てそうな本を本棚から取っていく。
(しかし、やっぱり顔もちゃんと隠す方がいい。風とかに被ったフードを吹き飛ばしたらおしまいだ。あ……だめだ。その方向で考えたら兜しか頭に入ってない!まずケープフードを基づいて後で考えよう。)
アロンは選んだ本を抱えて一階の受付に向かう。階段を下りる途中そこで見知った女性と出会った。
その女性は長い耳を持ってとても綺麗なエルフの女性だ。長い水色の髪は三つ編みして後ろに垂れている。彼女はアロンを下から見上げる。
「おや、アロンさんではないですか。お久しぶりです。何かお探し物ですか?」
「司書さんか。お久しぶり。ちょっと調べたいものがあってね」
「また魔界からなにか新しい拾い物でもしましたか?」
「そう、そういうこと。」
「そうか。アロンさんは本当に魔界に興味津々ですね。でもどうか度が過ぎないように。」
司書さんはアロンが抱えている本をちらりと見て、そしてこの一言を残してからアロンの傍に通って上の階に上って行った。アロンは彼女を見送ってからまた受付に向かう。
「よし、あとは晩御飯とケープフードを買って戻ろうか。」
アロンは図書館から出てオレンジ色の空を見ながら呟いた。
「ただいまー。」
アロンはドアを開けて家の中に入って来た。
「ひゃあっ!」
メリッサはアロンが出かけた後、机に寄りかかって寝ちゃったみたいで声がかけられ、びっくりして椅子から転がった。結構痛いようで地面に横になったまま体を丸めて呻いている。
「大丈夫?寝たいならベッドで寝てもいいだぞ。」
アロンは借りた本と買った物を机に置いて、メリッサの前にしゃがんで手を彼女に伸ばす。
「はい。立てる?」
「ありがとうございます……。」
メリッサはアロンの手を見上げて掴んでゆっくり立ち上がって椅子に座りなおす。アロンは彼女が座ってから向こう側の椅子に座った。そして晩御飯を紙袋から取り出した。
「とりあえず晩御飯にするか。君がなにを食べたいのは分からないからまずは一般的に受けのいいものを買ってきた。」
アロンはいろんな物を机に並んでメリッサに進めた。
メリッサはおどおどしながらゆっくりと食べ物を口にした。それから二人は相手の言葉が分からないから黙々と食事を進んだ。
食事が終わってアロンは飲み物を二つのカップに入れて、一つはメリッサにもう一つは自分に。それから図書館で借りた本を机の上に置いた。
「言葉が分からないままいろいろ不便だろう。だから早速だが勉強のために必要と思う本が図書館に借りてきた。」
アロンはその中の一冊を選んで開いてメリッサに向けた。
「まずはこの本からにするか、基本となる物はほぼ書いてあるからな。」
アロンはそう言って、彼女に教え始めた。眠る時間までメリッサはアロンと勉強し続けた。
それから二週間くらいが立った。話せる程度はまだまだ遠いがメリッサはアロンが言った共通語という言葉の基礎になる発音は大体覚えた。そしてアロンと毎日本を参考しながら練習していたから簡単なやり取りはある程度できるようになった。
それでアロンはたぶん平気と思って翌日の夜、晩御飯が食べ終わって片付け終了の時に先日買ったケープフードを取り出してメリッサに渡す。
「これがあると君にも外に出られるだろう。目を隠すのにないがいいが分からないからまずはこれで我慢してくれ。」
アロンはとてもとてもゆっくりとした速度で彼女に言った。
「メ?」
メリッサは困惑した顔でアロンを見返る。
「そう。」
アロンはしゃがんでメリッサと同じ水平を取って彼女の目を見つめる。
「その金色の目。それは狼人間しか持っていない特別な瞳色だ。もしそれをこの神聖同盟の管轄下の町で見られたら、大変な事になるよ。」
「シンセイドウメイ?」
「そう。人族、エルフ、ドワーフなどの種族が一緒になって魔界という敵勢力に対抗するための関係だよ。」
「ナンデ、テキシサレテイマスカ?」
「それは分からない、もう大昔の人たちしか知らないんだ。」
「ジャア、ナンデアロンハ私ヲカバイマスカ?」
「昔ちょっとの出来事で魔族は必ず悪と分かったからだ。それに子供まで殺すにはどうかと思う。」
アロンはなにか思い浮かんだようで目を下に向いた。メリッサはそんなアロンを見て頭を傾げる。
「?」
「本題に戻るよ。明日はその目を隠すために顔を覆う物を探すためオレと一緒に出かけるよ。長い付き合いになる物は君自身で選ぶ方がいいと思うからな。人間の町見たことないだろう?案内してあげる。でもオレからはなれないように。」
「ワカリマシタ。」
メリッサは頭を縦に振ってから髪はアロンにわしゃわしゃされた。
買い物日和だ、冬だけど快晴だからちょっと暖かい。町の大通りはガヤガヤ騒いでて、沢山の人と馬車が行き来してて、すごく賑わっている。
「人タクサン。」
アロンと手繋いで歩いているメリッサは目を丸くして唸ってる。
「迷子にならないように注意するだぞ。」
「マイゴ?」
「オレと離れるってことだ。」
「ワカリマシタ。」
メリッサはぎゅっと小さな手に力を込めた。
「よし、まずは顔を隠すための物を探そうか。ところで一応聞くが、兜はどう?確実で手っ取り早くだよ。」
アロンは試しにメリッサに提案した。しかし、メリッサはすぐに頭を横に振った。
「カブトハ嫌です。オモイ」
「はいはい。」
二人はゆっくりと大通りに並んでいる屋台を見ながら歩き出した。暫くして二人はいろいろな小道具を売っている屋台を巡ったがメリッサが興味を持った品物はないらしい。二人は一段休憩って事で通りの外側、歩く人たちの邪魔をしない所に移動した。
「目星になるものはないか。」
「ナイデス……。ボウシハムリトオモイマス。マスクハオチヤスソウ」
「さっきのあのゴーグルはだめか?」
メリッサは頭を横に振った。
「そうか。まぁー、まだ回ってない屋台もあるし、その内見つかるか。じゃあとりあえずそこの角を曲がったすこしの所に良く行くレストランがある。まずはそこで昼ごはんにするか。」
メリッサの返事を得て、二人はそのレストランに向かう。角を曲がって少し歩いたらレストランは目に入った。直後、歩いているアロンは手が少し引っ張られたのが分かった。頭を振り向いていたらメリッサは角とレストランの間のある店を見つめている。
「どうかした?」
「アノミセハ?」
アロンは彼女の視線を追ってその店を見る。
「あぁー、あれは魔道具を売る店だ。」
「マドウグ?」
「そう。魔法が使える人が魔法を物に込めてその物に本来持ってない性能を持たせる。それと魔法が使えない人も魔法が使えるように。」
「ナカ、ミテイイデスカ?」
「いいよ。行こう。」
店の中は店主らしい人がこっちに挨拶してきた。
「いらっしゃい。」
二人は店の中に入って棚にある品物を見回る。そしてメリッサは防具の棚の前に佇んである物をじっと見ている。それは鉄製のマスクだったが眼の穴があるはずの所は空いていなかだった、その代りに中心は立っている隻眼の浮き彫りが彫られている。両側のほっぺの所は六つずつの丸い小穴があいている。
「コレニキメマシタ。」
メリッサはその奇怪な面を指差した。
「えっ……と、これ、紐がないんだが付けられないじゃあ?」
アロンは彼女に聞いたがメリッサは無言のままアロンを見つめる。
「お客さん、それは心配に及ばないです。魔法が込めてるから顔に付けばそのまま吸い付きますよ。」
見ている店主は横から補充する。
(そんな魔法もあるか!?)
アロンは心の中で驚いた。
「目の穴がないが見えないじゃないか?」
「それも魔法の力で付けた途端、見えるようになります。」
「サイズは大きいが?」
「同じくそれも持ち主の顔に合わせられます。」
(どうやら要らない心配らしいが、ますます不気味に見えるな……。)
「でもこの面の仕様はちょっとこわくないか?」
「気のせいです。それはただ作者のスタイルですから。こう見えてもこれはなかなかいい一品ですよ。薄いのに頑丈さはばっちり、鉄製は普通重い印象を与えるけれどもこれは特別な加工に施してすごく軽いですよ。」
たぶんその作者のスタイルのせいでなかなかお客さんに恵まれてないでしょう。あまり売れないのは店主から薄々伝わって来る。
「そうか。」
アロンは頭を縦に振ってメリッサに振り向いて確認を入れる。
「本当にこれでいいんだな?別に今決めるってわけじゃないよ。もっと他のを見てみるか?」
「ヘイキ。」
メリッサはすごくそのマスクを気に入ったみたいだから、アロンはまた何か言いたいがやめることにした。
店を出て、二人はさっき行くつもりのレストランに入る。もう昼過ぎだろうか、人が少ない。アロンは隅の席を取ってそして二人は昼ごはんを取る。食事が終わって、メリッサはさっき買ったマスクをつけてみた。
「本当にちゃんと見える?」
「モンダイナイデス。」
メリッサは見えるよって食卓からフォークを取ってアロンに見せる。
アロンからは彼女の顔が見えないが嬉しいのは分かる。
「そうか。これでこれから一緒に出かけるな。」
「ハイ!」
今度はマスクを外してとてもいい笑顔を見せた。