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霊峰イームテッド山の山頂でアタシは儀式用の祭壇に向かってた。
空は昼間だというのに真っ黒な雲に覆われ、夜のように暗い。
遠くで雷の音が響いてる。
アタシが住むこの世界ミーナヘイムがアドロポリスの神々の侵略にさらされたあの日から、1日として空は晴れたことがない。
アタシの名はミュロクロノス。
ミーナヘイムの魔女。
「大蛇使い」の異名を持つ。
アタシはこの世界では最強と言われる力を持つ者の1人だったが、アドロポリスの神々にはまるで歯が立たなかった。
自信満々で彼らの前に立ったアタシの数秒後の行動は、なりふり構わない必死の逃走。
アタシを逃がす時間を稼ぐために残った数千の愛蛇たちが引き裂かれる音と「あれを見よ! なんと情けない姿よ!」とアドロポリスの神々が嘲笑う声が背後から聞こえてきた。
命からがら逃走に成功したアタシは、霊峰イームテッドの地下に広がる古代の人々が残した地下神殿へと駆け込んだ。
もはや尋常な手段ではアドロポリスの神々にはかなわない。
古代の禁術に頼る他はなかった。
侵略者たちがアタシ以外のミーナヘイムの猛者たちと戦う間(いや、それは戦いと呼べるようなものではなく、ただの一方的な虐殺に違いない)に古代の書を片端から読み続けた。
そしてアタシはひとつの結論にたどり着いた。
アドロポリスの神々さえも軽く凌駕する魔界の住人を召喚するのだ。
その名は「モルガングレムス」。
この怪物の強さは次元すら破壊すると古代の書には書かれている。
モルガングレムスならアドロポリスの神々を屠り、この世界から消し去ることが出来る。
アタシは急ぎ召喚術の準備を整え今まさに、かの怪物を呼び出そうとしているのだ。
祭壇の前に立ったアタシは呪文を唱えながら右手に持ったナイフで左手のひらに深い傷をつけた。
手のひらから滴り落ちる血を祭壇に置いた杯の中にそそぎ入れる。
この杯が血でいっぱいとなってアタシの呪文が終われば、モルガングレムスがこの世界に出現するはず!
アタシは逆襲への興奮に震え両眼をぎゅっと閉じ、そしてすぐに開いた。
アタシは真っ白い部屋の中に立ってた。