表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/72

53.タイガ辺境騎士団



 南へ向かったラルコ達が見たのは、二頭の黒牙狼(グロルノワ)を相手に果敢に大剣を振るい続ける、一人の魔道騎士の姿だった。

 ベアゴにも勝る堂々たる巨躯から藍色(アンディグ)(アウラ)をほとばしらせ、ラルコたちが三人掛かりで当たった巨獣にたった一人で、しかも二頭同時に互角の戦いを演じている。そのすさまじいまでの剣技は、なんと二刀流だ。

 近くには別の黒牙狼(グロルノワ)が一頭、腹を大きく切り裂かれて倒れている。二頭どころか三頭と戦い、しかも既に一頭を倒していたというのか。


 他の騎士達は、後ろに下がって彼の戦いを見守っていた。無理もない、一般の騎士が手を出しても足手まといにしかならないのは明らかだ。

 黒牙狼(グロルノワ)はそちらへも向かって行こうとするが、すぐさま彼が剣を振るって立ちはだかり、それを許さない。

 だが、いかな豪傑といえどその力は無限ではない。彼が破れたその時には、たとえかなわずとも命を賭して敵に立ち向かう。騎士達が逃げ出さずその場に踏みとどまっているのは、その覚悟の顕れだった。

 戦場に飛び込んで行ったラルコ達は、脚を止めることなく魔獣に討ちかかった。


「確実に一頭をしとめるぞ。ティグラ!」

「おうっ!」

 

 ダカルの声に応えて、ティグラが先頭に出る。

 左腕にまとう光の盾を前面に掲げ、そのまま突進する。同時にダカルとラルコは左右に分かれ、宙に跳んだ。

 ティグラが狙ったのは、左の前脚。黒牙狼(グロルノワ)が魔道騎士に飛びかかろうと低く構えたところに、自らを砲弾と化して一直線に撃ち抜き、鋼鉄の脚骨を一撃でへし折った。

 魔獣が不意打ちをくらって体勢を崩したところに、上からラルコが、続いてダカルが襲い掛かる。

 ラルコが光の大剣で背骨を叩き折り、ダカルの長剣が首筋を貫く。黒牙狼(グロルノワ)は三位一体の攻撃になす術もなく倒れた。


「なんだお前ら! 俺の獲物を横取りしやがって!」


 それを見た二刀流の魔道騎士が、大声を放つ。

 だが三人はそちらには見向きもせず、次の獲物に襲いかかった。


「させるか!」


 三人が打ち掛かるよりも速く、巨漢の魔道騎士はその姿に似合わぬ俊敏さで黒牙狼(グロルノワ)のふところに飛び込むと、身体を回転させながら二本の大剣を風車のように振り回し、嵐のような乱撃を浴びせかけた。

 突然現れたラルコ達に驚いて気をそらしてしまった魔獣は、その一瞬の隙に藍色(アンディグ)の光剣の餌食となり、ズタズタに切り裂かれてその場に崩れ落ちた。


「すげえ」

「この人は……」


 感嘆の声をもらすティグラとダカルの傍らで、ラルコは胸を押さえながら息を荒くする。

 二人はそちらに一瞬眼をやったが、気遣いが過ぎるのをラルコが嫌うのもよく理解していたので、あえて声をかけることはしなかった。


「おい、お前ら! どこのもんだ!」


 魔道騎士が大剣を両手に掲げズカズカと歩み寄って来る。

 獲物を横取りされたことに本気で憤慨しているのか、怒り心頭といった表情だ。


「俺達は、聖王宮の」

「貴様っ!」


 魔道騎士は名乗ろうとしたダカルにみなまで言わせず、剣を投げ捨てて胸ぐらに掴みかかろうとした。

 それを押しのけて殺到してきたのは、後方に控えていた騎士達だ。


「こら、お前ら! 何すんだ!」


「お前達、すごいな!」

「助かったよ! ありがとう!」

「ずいぶん若いな!」

「すごい剣技だ! 団長より強いんじゃないか?!」


 三人を取り囲み、興奮した様子で騒ぎ立てる騎士達。だがその最後の言葉に、後ろに追いやられてしまった巨漢の魔道騎士は、更に声を荒げた。


「なんだと! この俺がこんなチビどもに劣るだ?! 今言った奴、前に出ろ!」


 だが騎士達は一様に冷めた眼で彼に振り返り、口々に言い放つ。


「なんすか団長、助けてもらって礼もなしですか?」

「そんな、肩で息しながら威張ったって、恐くないっすよ」

「団長がやられたら、俺達全員討ち死にだったじゃないですか。団長は死んでも構わないですけど、俺らにとっては命の恩人ですよ」

「きっ、貴様ら……!」


 怒りに声を震わせる大男にかまう様子もなく、騎士の一人がダカルに笑いかけた。


「とにかく助かったよ。どこの騎士団から援軍に来てくれたのか、まずは名前を聞かせてくれ」


 ダカルは大きくうなずくと、声を張り上げた。


「聖王宮学徒、スカラーツ組。ダカル・カリグーです!」

「同じく、ティグラ・クマール!」

「ラルコ・カンターラ!」

「学徒だと!」

「騎士じゃないのか!」

「いや、ちょっと待て。いま、スカラーツって言ったか?」

「え?」

「まさか」


 騎士達が、顔を見合わせる。そしてわずかな沈黙ののち。


「「「破壊神スカラーツか!」」」


 そろって悲鳴のような声を上げる。今度はラルコ達が顔を見合わせる番だった。


「わはははっ! なんだお前ら、タクロの弟子なのかっ! これは面白い!

 俺はタイガ辺境騎士団団長、ジョコラ・パラディヌだ!」



―― * ―― * ――



 砦の大広間で、辺境騎士団とラルコ達十五歳組の対面が始まっていた。


 この砦は、タイガ辺境騎士団の最前線基地であり、同時に本部も兼ねている。

 本部が最前線にあるなど本来あり得ないことなのだが、当の団長自身が後方で指揮に徹するなど我慢できるような人物ではないため、結果としてこうなってしまっている。

 砦が建っているのは、タイガの森の縁から百カマールほど入った奥地。この付近一帯は丘というほどではないが見晴らしのいい高台となっていて、ラウンデイール台地と呼ばれている。

 その一角を切り開いて築いたのが、このラウンディール砦だった。


 砦とは言っても、城壁などで守られているわけではなく、雑多に建てられた建物を柵で囲っているだけの、簡単な造りだ。言ってみれば、ただの集落と何ら変わりはない。

 だが、そこに集うのは辺境騎士団きっての精鋭達。

 『双剣龍』の異名を持つ魔道騎士、ジョコラ・パラディヌ団長をはじめ、数十名の魔道騎士や魔導士と一千名にも及ぶ騎士を擁する一大基地だった。


 主な任務は、周辺の監視だが、それと同時に騎士達の実戦経験の場でもある。

 この辺りは奥地と言っても植生や生態系は普通の森となんら変わることはなく、比較的危険の少ない土地だ。だがこの先にあるコングリート川と呼ばれる南北に流れる川を越えると、そこには多くの魔獣たちが棲む、魔境が広がっていた。

 とはいえ、奥地ほど狂暴な獣がいるわけでもなく、それに度重なる遠征により大型の魔獣は周辺からは久しく姿を消しているので、相応の安全は確保されていた。

 辺境騎士団では、誰しも一度はこの砦に赴任し、魔境とじかに接し遠征による実戦を経験する。教導隊としての役割も担っていた。

 そういうわけで、暁の館十五歳組の研修地としても格好の場所だったのだ。


「で? どういうことだ」

「どうって?」


 パラディヌ団長が目の前に座るスカラーツ先生をジロリと睨みつけ、それを受けた先生が、はて? と小首をかしげる。

 ラルコ達がいるのは、砦の一角にある建物の中の、大広間だ。

 大広間と言っても、そこには応接室のような華美な装飾は何もなく、ただ広いだけ。暁の館の食堂の方がまだ華やかさがあると言いたくなるほどの、殺風景な部屋だった。

 そこには椅子すらなく、板張りの床の上にジョコラ・パラディヌ団長を中心に幹部らしき数名の騎士が並んで胡坐をかき、その向かいにタクロ・スカラーツ先生が前面に、後ろにラルコ達がかたまって座っている。

 その両側と後方を囲むように、数十名の騎士達が並んでいた。


「タクロよ。お前が今日連れてくるのは、尻尾の毛色も変わってないヒヨッコどもじゃなかったのか?」

「ですから、ヒヨッコどもを連れて来ましたが」

「ふざけんなよ。どいつもこいつも、うちの連中と較べても一級以上の強さじゃねえか。

 そのうえ何だ、そこの小っちゃい嬢ちゃんは。百人以上もいた死にかけを片っ端から蘇生させちまっただと? いったいどこの大魔導師様を引っ張ってきたんだよ」


 皆の視線が、先生の後ろに控えるアマルルに集まる。

 相変わらず上機嫌の笑顔を見せる彼女に、居並ぶ騎士達は自分の顔まで緩んでしまうのを止めることができなかった。

 またその一方で、並んで座る金髪碧眼の美少女と、派手さはないが赤毛の親しみやすそうな風貌の少女からも眼が離せない。

 女っ気のない奥地の砦に何年も閉じ込められている若い身としては、無理からぬことであった。


「そんなに褒めないで下さいよ。若いもんがいい気になったらどうすんですか。

 まだまだヒヨッコですよ、その証拠にまだ誰も俺に勝ててないんですから」

「ああそうか。お前に勝てないのなら、確かにヒヨッコだな」


 先生の言葉に、団長が苦い顔で答える。

 すると、騎士達の間からクスクスと笑い声が漏れた。


「いま笑った奴、後で稽古をつけてやるから楽しみにしとけ」


 ピタリと静まる。


「ふん……」


 ラルコは、そのやりとりを仲間達と一緒に見物しながら、周りの騎士達の意識を読んだ。

 どうやら、ここにいる騎士達の半数以上が、スカラーツ先生と顔見知りらしい。

 団長とはもちろん旧知、先生は十年前までこの砦に赴任していたようだ。


「団長、何をそんなに怒っているんです? 久しぶりの再会だってのに、もう少し喜んでくださいよ」


 スカラーツ先生が、パラディヌ団長に口を尖らせる。


「何って、決まってんだろ。

 暁の館からまたヒヨッコどもが来るっていうから、まずはいつも通り腕試しと称してボコボコに痛めつけて、大人の威厳てやつを見せつけてやろうと思っていたのに。

 来る早々あんな派手に暴れられちまったら、今さら威厳もクソもありゃしねえじゃねえか」

「子供だ……」

「子供だ……」


 騎士達の間から、声が漏れる。

 団長が睨むと、ピタリと静かになった。


「こうなったら仕方がねえ。おいタクロ、お前、俺とひと勝負しろ」


 いいですよ、と先生が軽く答えようとしたその寸前、団長の右隣に控えていた騎士が声を上げた。


「却下です。団長、冗談もほどほどにして下さい」

「なんだと貴様! 誰に向かって!」

「十年前、あなたとスカラーツさんがこの砦で何をしたのか忘れたのですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ