16.新しい仲間たち
「「あ……っ」」
ドークや他の子らが声を上げるのも気に留めず、少女はラルコの前に立つと、彼の両手を掴んで、早口にまくしたてた。
「ЙИйж*Н! Бир*шMX*xxxxx! XЖЬ**xxx! Тбцxx***xx!!」(こんにちは! 私はシーニャ・ヴァルロシャーク! 君、ロスコアの人だよね! 名前を教えて!!)
ラルコは思わず自分の名前を答えそうになってから、その子がしゃべっているのがブルメリアの言葉ではないことに気付き、慌てて口をつぐんだ。
いつもの調子で、言葉と共に発せられる意識を読み取ってしまい、相手が自分の知るはずのない国の言語を話していることに、すぐには気付かなかったのだ。
「МЬшxxй? XЖТблУеrxx?」(どうしたの? 君の名前は?)
怪訝そうに首を傾げるその子に、ラルコは申し訳なさそうに告げた。
「ごめんなさい、言葉がわかりません」
「えっ! ロスコア語がわからないって。君、ロスコア人じゃないの?!」
すると女の子は、今度はブルメリア語で声を上げた。
「はい。ぼくはキャラコルクの出身で、ラルコ・カンターラと言います」
「えーっ、なんだあ。せっかく同じ国の人に会えたと思ったのにい」
彼女はあからさまにがっかりして声を落としたが、それでも手を離そうとはしなかった。
(この女の子は、ロスコア人なのか。金髪に蒼い眼……そうか、本当に僕と同じだ)
「ふうん……。ラルコ君か、女の子みたいな名前だね」
「えっ? そ、そうかな」
そんなことを言われたのは、初めてだ。
「まあいいわ。私はシーニャ・ヴァルロシャーク、これからよろしくねっ!」
戸惑い気味のラルコの手を再びギュッと握りしめ、ニッコリと笑う。
「よ、よろしく……」
その一言をきっかけに、他の子供達も堰を切ったように一斉に駆け寄り、再びラルコを取り囲んだ。
「ようこそ、聖王宮へ! 僕はクライ・ミスティルだ」
「よろしくお願いします」
「はじめましてラルコくん、ボーウィ・ポポロだ」
「よ、よろしく」
「俺はダカル・カリグー!」
「シャン・ミミィだよ!」
「クロウレ・タンリート」
「バード・カリグー!」
「ライラ・スロウリ!」
子供達が一斉に押し寄せ、口々に自己紹介を始める。
ラルコは大勢の子らに押し潰されそうになりながら、次々と叫ばれる名前を何とか聞き取ろうとしたが、こう一時に言われてはとても追いつけるものではなかった。
シーニャは一緒に押し潰されながらもラルコを離そうとせず、それどころか笑いながら抱きついてきた。
「あ、ちょっ!」
ラルコは慌てて離れようとしたが、シーニャはがっしりと掴んで離さない。
周りでは他の子供達が我も我もとラルコに向かって手を伸ばし、二人をもみくちゃにした。
「あははっ! ちょっと誰? 変なとこ触んないでよ、変態!」
ラルコに触ろうとする子供達と、抱きついて離さないシーニャ。いったい変態とは誰のことなのか。
その様子を、ドークはやれやれといった顔で眺めていた。
―― * ―― * ――
その後は、ラルコを囲んでの夕食会となり、改めて皆の自己紹介がなされた。
聖王宮には、総勢百二十名あまりの子供が暮らしているらしい。それも全員が孤児だ。
事情はそれぞれだが、中には赤子の頃に捨てられ、ここで名を付けられた子も少なくなかった。
そういった子はカリグーの姓を付されているので、名を聞くだけで判る。だがそれが何かの差別を生むことはなく、ここで暮らす子らは皆、血のつながった兄弟と同様の深い絆で結ばれているようだった。
そして今日からはラルコも、その一員となる。
新入りの彼を余所者扱いするような者は、一人もいなかった。
ラルコは、『聖王宮』という名前の高貴な響きから想像していたのとは全く違う、和やかな雰囲気にホッとしながらも、自分がどうしてここに呼ばれることになったのかは未だ判らず、戸惑いを隠せずにいた。
(なんて、不思議な場所なんだ。これではまるで……)
戸惑いの理由は、もう一つあった。
それは、彼を取り囲んでいる子供たちについてのこと。
彼らは、ドークと違って心も開放的で、話しかけてくる言葉と同様の意識がストレートに流れ込んでくる。だがラルコは、表面に流れる意識の奥底に、今まで会った人達にはない、得体の知れない何かが潜んでいるのを感じ取っていた。
いや、子供だけではない。彼らから先生と呼ばれている他の大人たちも、もちろんタダン・ドークからも、微かにではあるが同じものを感じている。
その何かが、自分が今ここにいる理由と、聖王宮の本当の役割につながっている。そんな気がしていた。
だがこの時ラルコは、一つ大きな勘違いをしていた。
ラルコはこれまで、ほとんどの知識を人の意識を読むことで得ていた。そしてそれをひた隠すことに腐心していたため、すべてが受け身で、自分から他人に働きかけるという行動はしたことがなかった。
つまり、知らないことは質問してみるという方法があることなど、思いも寄らなかったのだ。
だから。
「判らないことがあったら、何でも訊いてね?」
と、あっという間にラルコの隣という立ち位置を自分のものにしてしまったシーニャにそう言われた時、ラルコはそんなことをしていいのかと、見当違いな衝撃を受けていた。
「えっと、何でもいいの?」
「もちろん」
ニッコリと笑うシーニャの頭の中にあったのは、日々の暮らしに関することだったに違いない。
でも、物を尋ねるということに慣れていないラルコは、自分の一番知りたかったことを、ストレートに口にしてしまった。
「僕は、どうしてここに連れてこられたんだろう……」
シーニャは予想外の質問に一瞬言葉を失い、それから、大きく笑ってラルコの背中を叩いた。
「あはははっ! 君、何を言っているの?!」
「ご、ごめん」
あまりにも的外れだったかと、言ってから気付いて頭を掻くラルコに、彼女は続けて言葉を放った。
「そんなの、勇者になるために決まってるじゃない!」




