聖龍祭②
シルビアは虚ろな目をして、仏様がもつような物を手に手にもった他の少女達と踊っていた。
「まさか、聖乙女に選ばれるとは…」
聖乙女とは聖龍祭で最も大事な神事を司る乙女達のことである。
シルビアの前世で言えば巫女のような存在だ。
教会に納められた聖龍の珠に舞を奉納してついでに少しずつ魔力も注ぐという役割である。
「なんでこうなった…」
ゲームでは、シルビアは聖龍祭の一部を仕切る生徒会メンバーと共に行動し、彼らというかマリアベルのアイデアにことごとく反発し潰していく役割であった。
シルビアがなるべくマリアベルとその愉快な仲間達と距離をとったため、ゲームの強制力は別な方向へ動いたようである。
「まぁ、今回は生徒会の相談役という役柄をお兄様も逃れられた事だし、これぐらいは我慢しなくちゃ…なのかしら?」
ヒロインイベントてんこ盛りの聖龍祭の時期は再びカルラやロッテと王都を離れ、関係のないところで遊び倒そうと計画していただけに残念である。
とはいえ、今回の事は全く考えられなかった事ではなかった。
「聖龍祭には莫大なお金がかかるから、それを伯爵以上の貴族が寄付金という名目で負担するシステムなんだってお兄様がおっしゃってたから、まぁちょっとはそういう可能性があるかもとは思ってたけれど、王太子妃として不適格と評判な私が選ばれるだなんて、まさかと思ってたのになぁ」
その寄付金という名の負担金へのご褒美というか見返りというか。
寄付金を拠出した貴族の家から、その子女が聖乙女に選ばれるというシステムが暗黙の了解となっていた。
何故、伯爵以上なのかと言うと、建国から連なる王家との関係性と実際に払える財力を考慮した…という基準のような物がある。
何しろ建国から続けられているため、もはやそれは規則のような物なのである。
庶民の間には聖乙女に選ばれることに憧れる向きもあるようだが、実際はスパルタの舞指導で、水面下の白鳥の足のように努力を強いられる。
経験者をして、参加するよりは見ている方がいいと言わしめる、とてもご褒美とは思えない特典なのだ。
とはいえ、聖乙女に選ばれた家では一応は名誉なので喜ばしい事らしい。
そういえば、ゲームではヒロインも聖乙女の一員だったと思うのだが、姿が見えない。
「まさか、私が入った事で押し出された?…でもマリアベルの出身って男爵家…あれ?そもそもマリアベルはどうして男爵令嬢なのに聖乙女に選ばれてたんだっけ?」
先生の手拍子に合わせて華麗にターンを決めたところで、練習会場のダンスホールの扉がダーンという音と共に開かれた。
「この学園で、このように爵位による差別がまかり通るとは!」
そう高らかに断じながら入室してきたのはこの国の王太子殿下とその仲間達。
(あ、こうやってゴネてゴリ押し参加したんだ)
シルビアは一瞬で理解をした。




