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※だから悪役令嬢って嫌って言ったでしょ?

 やる気が出なかったからと言って、まるで対策を取っていなかった訳じゃなかった。

 でも、断罪は卒業パーティの場だからと高をくくって呑気にしていた事も事実だ。


 宿で親戚一同が集まった時も、遊んでいないで祖母の『ジェラル将軍の麦』の話を聞いておくべきだったし、兄からはもっとためになる情報を得られていただろう。


 聖乙女の衣装もさっさと売るなりあげるなりしておけばよかった。

 イザベラ嬢はさっさと衣装を売り払っていたそうだ。

 着替えるからと言って護衛を遠ざけたのも失敗だった。彼らも着替えたいだろうと下がらせてしまっていた。身内しか泊まっていない宿だからと安心しきってしまっていた。


 イザベラ嬢よりもシルビアが疑われた理由は他にもあるだろうけど、一番は『シルビアは悪役令嬢』という設定にあると思う。


「悪役令嬢」って一体何なんだろう。


 ヒロインを主役で見れば、シルビアは悪役令嬢。


 でもシルビア側から見たらヒロインが悪役なのだ。


 婚約者候補に選出され、そこから婚約者として選ばれた。

 シルビアが望んだ事ではないが、それは事実だ。


 シルビアからしたら、自分は何も悪い事はしていないと確信していたはず。

 貴族の婚約、ましては王族の婚約は政治のパワーバランスの元に決められた約束で、そこには好いただの惚れただのは二の次。

 むしろ自分は正しいとそう思っていた。


 第一、好きな相手とどうこうしたいからと言って障害になるような相手を勝手に「悪役扱い」はあまりにもひどくはないだろうか。


 ちゃんと口も手もまわるんだから、きちんと段階を踏めばいいし、説得しなければならない相手は説得すればいい。


 第一シルビアには逃げ道すら用意されていないのだから、そのぐらい不公平な関係なのだから、思いを遂げたいのならば、きちんと正攻法で認めさせればいいではないか。


 批判をして悪口を言って貶めるだけとは、卑劣がすぎるというものでしょう?



 と、言う事をアーウェンに言ったけど通じなかった。

 使っている言語が違う訳じゃない。同じ王国語を話をしているのに話が通じない。


 何回も叩かれた。

 両腕を強くひねられ、ひどく揺さぶられた。


 水もかけられた。


 罪人にはこうして罪を認めさせるのだと言って。


「私は罪人なの?」


 どうしてこんな事をするのか分からず、そう聞けば悪役の自覚がないのだと責められた。


 アーウェンとグランにとって、シルビアはシルビアという名前のひとりの令嬢ではなく、悪役と名付けられた物体のようなものらしい。


 彼らの望む言葉を吐くまで、どうやら甚振られるのが役目らしい。



 ここへ連れてこられてからずっと責められて身体の感覚がない。


 彼らは焦っているようだ。

 侯爵令嬢が行方不明になったという事で王都でも問題になりつつあるらしい。

 アーウェンもグランもシルビアが有罪だと信じこんでいるから、シルビアが罪を認めてしまえば、誘拐は何とでもなると、必要な行為だったのだと認めてもらえると思っているらしい。


 げぼっげほっげほっ


 ここがどこなのかは分からないけど、寒くて仕方ない。

 雨に濡れて、体調を崩していたらしい。

 咳が出始め、とまらない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 



 ぐったりとしたシルビアを見て、グランは不安になった。


「なぁ…やりすぎじゃないか?これでは僕達がまるで悪漢だよ」


「もう少しだ、もう少しできっと自白するはずだ。やり方が温かったかもしれない。犯罪者にはこうやって…」


 鞭を取り出したアーウェンを見てさすがに目をむいて止める。


「だめだよ。この人はそこらのごろつきじゃないんだよ。貴族のご令嬢なんだよ?そんな事したらどうかなってしまうよ。第一痕がついて、すぐに僕達が暴力で無理やり自白させたって思われるよ?」


「だってどうすりゃいいんだよ!こいつが自白しなきゃ、俺の、俺達のやってる事は!!」


「別の方法を考えようよ。そうだ、自白剤だよ。そんな薬があるって聞いた事がある。一度冷静になってもう一度やり方を考えてみよう?ちゃんと手当して帰せばきっと僕達、多少は怒られるかもしれないけど、きっとわかってもらえるよ!マリアベルを助けるためだったって!」


 小屋の隅で空気になっている髭面の男の事も気になるが、すでに半日以上シルビアを監禁している。

 自分達も家を空けており、これではシルビアの自白を引き出す前に先に誘拐を疑われてしまう。


 これは誘拐などではなく、正義の為の尋問なのだ。

 疑われて邪魔などされては全て無駄になる。


 グランに説得されてアーウェンはようやくシルビアを責めたてるのを止め、気分転換に外の空気を吸いに出ていった。

 



(どうしよう。アーウェンの奴、歯止めが効かない。)


 どうにか、シルビアから引き離す事が出来たが、アーウェンのあんな鬼気せまる態度はグランにとってはじめてだった。


 自分は何かとんでもない事に協力してしまったのではないか?

 おそまきながらグランはようやくその事に気が付いた。



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