その頃の王宮
その頃の王宮は上を下への大騒ぎだった。
名だたる領主達がいきり立って王城に押しかけ王太子に事情を聞きたいと城の中にひしめき、近衛や守衛に侍従までがその整理に追われ、そこに神殿からの使いが、聖龍祭にて龍が顕現したと口角泡を飛ばし興奮して押しかけて来て、一気にカオス状態は加速した。
別の侍従や文官は王国法の重い法典を抱えて右へ左へあたふたと走り回り。
宰相であるマティス・ホーンは頭を抱え、王は頭上を仰ぎ、目を覆った。
聖龍祭で、先に雨から避難したのでそれほど濡れなかったが、風呂に入って身体を温める暇もなく、王城に帰りついてすぐに着替えもそこそこに対策を練ったが、時すでに遅く。
王太子とその仲間達が仕出かした失策は取り返しのつかないものになっていた。
たしかに忙しかった。
言い訳だが、他に重要な案件があって、王太子の持ってきた書類によく確認もせず判を押してしまった。
王自身も王太子時代にやった仕事で問題が出るとは思わなかったのだ。
「わたしの息子が、王国法の抜け穴を見つけて唆したようです。この責任は…」
マティスが息子のレーベルが仕出かした事にすぐ気がついた。
しかしながら、全ては遅きに失した。
「変に頭が良すぎるというのも、良い事ばかりではないな、マティスよ。きゃつらは儂らの予測を超えた」
「とにかくこの件は早急に鎮火せねばなりませぬ」
「儂の権威を使ってもよい。早急に事態を治めよ。マティス」
「は、貴族会を招集してもよろしいでしょうか?」
「そうせねば、治まるまい。儂はもう一方の方『龍が出た』件に対応する」
「さっそく招集令を出しましょう、まぁそんな物出さずとも有力な関係者は全てここに集まっているようですが」
王に礼をするとマティスは王の間を下がり、つき従っている従僕に命令した。
「わが息子、レーベルを呼びつけろ。場合によっては放逐もありえると伝えろ!」
いつもは息子に甘いマティスのあまりの激高ぶりに、従僕は顔を青ざめてその場を出ていった。
「今の者もそうだが息子の周囲につけたものは、マドレーヌの遠戚のものであったな。どうもマドレーヌに縁のものはレーベルに対する甘やかしが目につく」
この件をうまく乗り切ったら、レーベルの乳母、マドレーヌの関係者ではない者達に息子の周囲を総入れ替えする事をマティスは決めた。
領主達の相手を宰相のマティスに任せる事に決めた王は、額に汗して走りまわっている侍従の一人を呼びつけた。
「わが息子、王太子ルーカスを呼べ、尻の拭き方を教えねばならぬ」
場合によっては廃嫡も考えねばならぬ。
このような失策をしては次代の王としての求心力を失ってしまう。
だが正妃の産んだ息子はルーカスただ一人。
ルーカスを廃嫡すれば、側妃や弟の子を王太子に据えなければならないが、派閥争いに発展しやがては大きく王国を分断してしまう事になるだろう。
「まったく『魔王出現か』という知らせの入ったこんな時に!どいつもこいつも!」
王は苛立ち、手にした王杖を床に激しく打ち付けた。




