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聖龍祭⑤

「カルラ!ロッテ!」

「「シルビア!!」」


 宿についてみれば、親しい友人の姿があってシルビアの顔は自然とほころんだ。


 二人とも、心配してシルビアを訪ねてきてくれていたらしい。


「カルラのドレス!それいいわっ!」

「そうでしょ、とても似合ってるよね!」

「流行の青がポイントになっていて、とてもお洒落ね~」

「ロッテのドレスのここの刺繍も綺麗でしょう~?」

「北方の騎馬民族のモチーフらしいの」

「不思議な色づかいねぇ。新しいわ!」

「見て、シルビアのドレスのレースの繊細な編み方!」

「わぁ~どれだけ細い針で編んだのかしら」


 女三人集まれば姦しく、話題もつきない。


 前夜祭は教会へ、儀式に使う供え物を各家で届けて、祭司に挨拶をすませた後、その後は親しい貴族毎での宴になる。

 中には宴から宴へと渡り歩くせわしない貴族もいるようだが、たいていは親戚縁者の集まりで身内ばかりのアットホームな空間だ。

 シルビアも叔父や叔母や従兄弟、祖父母といった顔ぶれを見てほっと息をついた。

 彼ら、彼女らは本心はどうかはわからないが、皆、父の決定や動向に追随しており、表向きはシルビアが仕出かした事に対して批判的な者はいなかった。


 驚いた事に、父が弁明して回ってくれてあったようである。

 いちいち一人ひとりに捕まって言い訳をして歩かなくても良いのには、本当に助かったし、それどころか「大変だったね」と労われて面食らった。

 シルビアには、ただ自分が面倒な事から逃げているだけという自覚があった為、少しだけ後ろ暗かった。

 

 責められるより、罪悪感を感じさせられて、それを狙って父がしたとすれば、策士と言わざるを得ない。

 使い古された言い方をすれば、これこそが「孔明の罠」と言えようか。


 父上様怖い。


 結局は、そんな罪悪感もどこかに置いて、シルビアは聖龍祭を楽しむ事に決めた。

 他人の考えている事の裏側なんて考えたって分からないのである。

 だったら表向きの気持ちだけありがたく受け取っておこうと。


 まぁ、平たく言えば、開き直ったのだった。

 


 ゲームでも下町では聖龍を模した神輿が担がれ、珍しい出店がならんでいて、ヒロインと攻略対象がきゃっきゃうふふふと楽しそうな描写があった。

 

 下町散策は大変心惹かれる物があるが、ニアミスを防ぐために絶対に踏み入れない事にした。

 今回は我慢である。

 ゲーム期間終了後の自分がどうなっているか分からないけれど、下町散策は4年後にすればいい。

 第一、カルラとロッテをそういう場所に連れてはいけない。

 前世の記憶が蘇ったシルビアとは違って、彼女達は根っからのお嬢様であるのだから。


「と、言う訳で『トランプ~』あとで『羽つき』もしましょう」


 

 ありきたりではあるけど、異世界転生ではお約束の『トランプ』をシルビアも作ってみたので、それを初披露してみた。


 従兄弟を交え遊んでいると、叔父や叔母も加わり、大白熱。

 夢中になった大人組にカードを横取りされてしまった為、今度は羽つきをしていたが、調子に乗って宿の大きなテーブルを台に見立てて「卓球」をはじめたら、さすがに侍女達に怒られた。


 テーブルを台にするために、食べ物の器を移動させたのが悪かったらしい。

 宿の人が笑顔で台にしてもよいテーブルを用意してくれ、それが球のとてもよく跳ねる仕様だったため

 結果的には良かったのだが、この後、この宿は「娯楽場」としてこの遊び道具を常設したいのだがと相談にきてシルビアを喜ばせた。 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


 聖龍祭の祭日の当日は早朝、日のあがりはじめる頃に舞の奉納からはじまるので、それに間に合うように起きなければならないが、得てして人とは羽目をはずしがちだ。

 そのため完徹で祭り本番を迎える者もいるという。





 友人達と遊び、久々に笑顔を見せた妹をベルエールは目を細めて愛でていた。

 今日のシルビアはよく笑う。


「よっ!」

「やぁ、クリストフ」


 友人のクリストフが明日の打ち合わせのためベルエールを訪ねてきた。

 そして開口一番、今一番旬な話題について触れた。



「イザベラ嬢の事、噂になってるな」

「ああ」


「イザベラ嬢、宰相どのの息子殿と婚約の話があったみたいだが、今回の事でなくなったな」

「それに、出店者に関して、いろいろ手落ちがあるようで現場が混乱しているようだ。…殿下達に任せるのはまだ時期が早かったのではと、もっぱらだ」


「僕は現場を見ていないが、そんなにひどいのか?」


「ああ、マルボロース商会が、我が国の品物よりもだいぶ安めに輸入品を売っているらしく、各領の領主方がだいぶお怒りだ」


「輸入物には関税がかかるはずだから…、あまり安売りすれば、商会の利益がないだろう?」

「それがだな、殿下の鶴の一声で…」


「関税を撤廃したのか?」

「さすがにそれは現場が拒否をして、聖龍祭の時期だけ関税額をひき下げるという事で落ち着かせたのだがね」


「それでも、安く輸入品を売られたのでは、主力商品がかぶる領では打撃だろう」


 各領によって稼ぎ頭は様々であるが、この聖龍祭を宣伝の場ととらえ、意気揚々と地方から乗り込んできているのである。


 商談で他で買った方が安かったとか言われたら、販売戦略を立て直さなくてはならない。

 コストを確保しつつも値下げを検討せねばならず、聖龍祭以降は厳しい商いになるであろう。


 それは各領の税に跳ね返って来て、すなわちそれが領の運営に影響を与える。

 各領が計画していた様々な政策の予算は削られ、それは領民の生活、すなわちその領の集合体である王国に影響を及ぼすのだ。



「特に麦がひどい」


「主食ではないか、我が国では昨年、一昨年と不作が続いたからな…民には価格で我慢させてしまっているのが現状だが…それはそれで意味がある事なんだが」


「陛下も頭を抱えておられるとの事だ。殿下には出店者や出店ブースの管理をまかせる事によって、我が国の特産物や産業や物流を肌で理解してもらうつもりだったらしいが、まさかそういう事態になるとは…」


「ジェラル領で麦が作付け出来るようになって、主食の自給にめどがついたものを」


 ジェラル領は麦が特産である。この国きっての魔鉱石の町シブラルと王都の中間にあり、ジェラル領が領として栄えているために、シブラルの町の治安も安定して健全化しているという面もある。

 それまでは主食になる麦の流通を盾に他国に無理難題を押し付けられたり、魔鉱石の値を安く買い叩かれた年もあり長年王国では、問題のひとつだったのだ。


 麦の売買によりジェラル領が栄えれば栄えるほど、人と物が集まり、シブラルとの往来が安全になり外敵も入り込みにくい。


 そのため、王国ではジェラル領に対して融資や補てんをしている程であり、ジェラル領はその重要な立地から現在は王弟殿下が治めているほど大事な土地である。


 不作が続いて、麦が高騰してしまっているが、補てんをすることで価格を出来る限り抑えてある。

 それなのに外国から安い麦などを輸入して売れば…。


「ジェラル領も、わが国にも打撃だな」


「長じてシブラルにもよくない影響を与えるだろうね」


 魔鉱石はさまざまな魔道具に使われている。

 比較的近年に見つかった鉱脈であるが、この鉱山を抑えている事で、どれほど周辺諸国に対して国が優位に立っていられることか。


 マルボロース商会のやり方は、この国にとってとてもまずい物といえる。


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