聖龍祭③
「あの、殿下、聖乙女はもう選出済ですので」
舞の指導をしていた担当のマルムンド師が毅然と言うのに、ルーカスとアーウェンの陰に隠れるようにいたヒロインのマリアベルが被せるように叫んだ。
「おかしいです!何故高位貴族家の関係者ばかりが選ばれているのでしょうか?」
ーーー関係ないのに、なんでしゃしゃり出てくる?
そんな微妙な空気が、7人の聖乙女から醸し出される。
「学園では平等をうたっています!庶民にも門戸が開かれるべきです!」
いやいや、待て待て、聖乙女に選ばれた7人が学園の生徒であったからたまたま学園施設を利用して舞を習っていたけど、これ学園行事ではなくて、立派な国家行事な訳でそこには学園ルールは適用されない。
というか、お前ん家寄付出してないよね?
というありありとした軽蔑を含んだ視線に、マリアベルはひるんだ。
「で、でんかぁ。おかしいですよねぇ?」
「うむ、悪しき伝統は改革されなければならぬ」
「「はぁ?」」
言われた方はそろってお口ポカーンである。
「殿下は今回の聖龍祭を盛り上げるべく国王陛下から役割を任命されている。殿下の意思に異議のある者はいるまいな?」
出たよ…出ちゃったよ。葵の御紋だよ。宰相の息子であるレーベルが葵の御紋を振りかざしちゃったよ。
こんな事言われてて、マルムンド師も逆らえる訳もない。
でも彼も頑張った。
「ですが、殿下、今から新たに人を…と言われましても、聖乙女は7人と決まってますし増やす訳にも…、それに舞はすでに本番を待つばかりに仕上がっております。これから最初から覚えるとなりますと…」
すでに舞を覚えた人の足をひっぱることになる。
言外に足手まといだと匂わせたのだが、言われた方はそんな事など知っちゃいないようだった。
「聖乙女に、庶民でもなれると知れれば、庶民の娘達にも励みとなることでしょう」
馬鹿だ。
だいたい聖乙女とは着飾って舞を踊るだけの仕事ではないのだ。
その着飾る衣装だって故事になぞって新たに誂えなければならない。すべて自前で!
気が付くとシルビアは手をあげていた。
「その娘が入るなら私は辞めるわ」
「シルビア様!!」
「いけません!シルビア様!」
マルムンド師や他の令嬢達が必死で止めるのを尻目にずんずんと歩いていって部屋から出る。
「ちょっと待て!」
そんなシルビアの腕を取るものがいた。
「何故、お前はマリアベルと仲よく出来ないのか?」
シルビアは言った人間の顔を穴のあくほど見つめた。
「…嫌いだからですわ」
黙っていようと思っていたのに、その言葉はするりとシルビアの唇から零れた。
こんな人だったろうか?
そんな疑問の答えもすでに失って久しい。
ルーカスの手がシルビアの腕から離れ、だらりとたれさがった。
アーウェンは視線で殺せそうな程シルビアを睨んでいる。
マリアベルとグランは聖乙女の衣装について盛り上がっており、レーベルもすでにマリアベルとシルビアが入れ替わる事を決定事項としてとらえているようだ。
「……」
唖然とするルーカスを背後にシルビアは会場を後にした。
「嫌な思いをするのが決まっている場所にいる必要もないものね」
もう勝手にしろとばかりに後ろは振り向かなかった。
シルビアに合わせて誂えた美しい衣がさよならをするように左右になびいていた。




