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ポラリスへの片道切符  作者: 阿賀沢 隼尾
第1節 冒険編 第1章アクロポリス編
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第5話 マヌ・ルーサの戦慄なる人生—2

  人生がそんなに甘くないということは今までの経験で分かっていた。

  それでも、ここまでの地位と信頼を築き上げて来たのは紛れもない私の実力。


  今回のことも信用されてここまで来た。

  任された。

  それなのに、それなのに————

  この有様は何なんだ。


  私は目の前に写る光景を見る。

  ああ、これは地獄だ。


  仲間の悲鳴、血、死——

 

  これが戦争なのかと思い知る。

  私達アクロポリス側は正攻法で攻める一方、敵はゲリラ戦法で攻撃してくる。


  死体を召喚し、予め掘ってあった地面の下に潜ませて背後から攻めてくるのだ。


「ひ、や、や、や、やめて・・・うぎゃあああああああ!」

「くそっ!」

  無意識のうちに舌打ちをする。

  これ以上見ていられない。


  こうなったら・・・


「私が前に出ます。精鋭部隊はみんな私についてきなさい」

「し、しかし。隊長それは——」

「私なら大丈夫だ」

  部下の不安を取り除くために、微笑んで見せた。

  それに、私は仲間が死んでいくのを平気で見ていられる程冷酷な女ではないからな。


  私と精鋭部隊【第1部隊】は森の中へと入り込んで行った。

  今思えば、普通に森の中に炎系の魔法をぶち込めば良かったのだが、経験の浅さが災いしてしまった。


「私は最年少で聖騎士長になった女だ。早々負けない。それに、みんな優秀だからな。敵がどんな手を使うかこの目でじっくり観察したい」


  【魔獣の森】の中を精鋭部隊と進んでいく。

  【魔獣の森】の中はまるでジャングルの様だった。

  あるのは獣道のみ。


  私達はこの中を潜り抜けて生きて帰らなければならない。

  敵の攻撃は生きて帰ってきた兵士から聞いている。


  地面に穴を掘って、そこからいきなり出てくる。

  要は、その穴とやらを見つければいい訳だけれど、こんなに鬱蒼と木々が茂って密集していると、下の地面さえも見えない。


  つまり、穴を見つけるのは針穴に糸を通すようなもの。

  容易に見つけることは出来ない。


  それでも、死んだ仲間たちのために私は行かなくてはいけない。

 

「本当に見つかるのでしょうか」

  仲間の1人が言う。


  気持ちは分かる。

  どこで襲われるか分からない不安と恐怖が交差する。


「大丈夫。地図は用意してあるわ。その近くに彼らが使っている穴がある筈よ」

  そう。

  生きて帰って来た仲間には、仲間がどこで襲われて死んだのかを、この『魔獣の森』の地図に印を付けて貰っていたのだ。


  奴らに——

  『ノアの死霊団』に復讐する為に。


「地図によると、この近くにあるはずなんだが・・・」

  草むらの中を掻き分けながら進んでいるが、中々見つからない。


  ガサガサッ


  背後で物音が聞こえたと思ったその時だった。

  ぐじゅり、という嫌な音がしたかと思うと、仲間の1人が仰向けになって倒れた。

「ミティア! クソッ!」

  突然の事で陣営が崩れる。


  敵は黒いローブを羽織っていて顔がよく見えない。

  でも、ローブに刻まれている髑髏の模様を見ると、この敵が『ノアの死霊団』の一味だということが分かった。


  陣営が崩れたのをいい事に枝の間から、草むらの中からと、次々と敵のネクロマンサーが襲って来た。

  合計7人。

  私達の人数より2人多い。

 

  私に2人襲いかかって来た。

  1人はナイフ、もう1人は剣を持っている。

 

  ナイフを持っている男は、私に向かって突進して来た。

  私は横にステップしてそれを躱す。

  と同時に彼の手を掴んで膝で彼の手に攻撃する。

「ぐはっ」

  彼は唸り声を上げてナイフを掴んでいる手の力を一瞬緩めた。


  私はその隙を見逃さなかった。

  彼からナイフを奪うと、彼の胸に突き刺して、引き抜く。

  肉の生々しい感触が手の中に残る。


  休んでいる暇はない。

  ここは戦場なのだ。


  剣を持った男が、剣を振り下ろして襲いかかって来た。

  私は、突っ込んで行って、剣を受け流して敵の腹を蹴った。


  敵は、仰向けに倒れた。

  私はその隙を見逃さなかった。

  すかさず、ナイフを彼の首の頸動脈を狙って切った。

  返り血を浴びたが構わない。


「みんな、大丈夫か!」

  私は仲間に呼びかけながら、周囲を見渡す。

  仲間は、2人減っていた。


  地面に血を流して倒れていた。

「嘘だろ・・・・・・」

  言葉が出なかった。

 

  これ以上仲間が死ぬのを見るのは限界だった。

「うわぁぁぁぁ!!」

  ほぼ、半狂乱な状態に私は陥っていた。


  そこからの記憶が私には無かった。

  気付いたら、私は敵の内臓にナイフを刺していた。

「団長」

  仲間が私の名を呼んでくれた。

「シーニャ、ガルフ」

  私も仲間の名を呼ぶ。

「生きてくれてありがとう。生き残ってくれてありがとう」

  憎き敵に顔を向ける。


  憎悪と嫌悪が胸の中を支配する。

「こいつらの顔を拝まない限りは腹が収まらない」

「私達もです」

「俺も」

  私とシーニャ、ガルフはお互いに頷き合って、

「それじゃ、いくよ」

  私の右手が敵の被っている漆黒のローブを外す。


「「「!?」」」

  言葉にならなかった。

  いや、言葉が出なかった。

  私達が目にしたものは想像を絶していた。


「げ、外道がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

  ガルフは黒髪を逆立てながら、断末魔の如く絶望の声を上げた。


  私達の目に写ったもの。

  それは——

  私達の仲間の死体だった。


  彼は、私とほか2人の見知っている人物だった。

  彼は武術は決して優れているとは言えなかったが、とても優しく、部下にも同い年にも上司にも気配りが出来る人物だった。

 

  彼はある戦争で死んだと聞いていたが、まさか、まさか死体として、兵力として使われていたとは——

  なんということだろう。


  非情、外道、鬼畜、無慈悲、卑劣——

 

  許せない。

  こいつらを何としてでも殺さなくてはいけない。

  私はそう決意した。

  仲間の為に。


  その後、私は森から出て、山の上から森に向かって遠距離魔術を放って敵を炙り出す作戦に出た。

 

  作戦は、大成功だった。

 

  私は、陣地を置いている山から弓矢で彼等のアジトを狙う。

  その弓矢の名は【ガーンデーヴァ】。

  本国最強の弓矢である。


  特殊な魔術式が施されており、(つる)を引き魔力を通すと魔力で作られた矢が現れるのだ。

  それも唯の矢では無い。

  超高密度な魔力をその細い線の中に溜め込んでいるのだ。

  それも、軽く山1つを破壊するほどの。


  夕焼けのように赤く染められた弓腹(ゆはら)——

 

  私は【ガーンデーヴァ】の弦に人差し指と中指を引っ掛けて構える。

  矢が星のように輝き姿を現す。

「これは制裁だ。仲間の仇を、不当な理由で家族を失った者達の憎しみと恨みだ。愚弄なネクロマンサー共!!」

  掛けていた人差し指と中指を離す。


  矢が火の鳥の如く空を駆ける。

  ゴウッと風を切り狙い定めた場所へ矢が深紅の線を描く。

  矢が地に着くと、爆音とともに半球の猛爆が森を覆い尽くした。

  猛烈な爆風が私の髪を荒らす。

「さて、もう1つやらなければな」

  風で揺れる髪を描き撫でて部下を連れて山を駆け下りる。


  ネクロマンサーの特徴は、彼らが独自に用いる魔術『死霊術』にある。

  死体を操ったり、死人の声を聞いたり、魂を蘇らせたりと何かと禁術の多い魔術を用いる。

  しかし、それ以外の魔法はあまり使えない。


  攻撃魔法も防御魔法も——

  なので、彼らの操っているゾンビや死体を倒せばもう勝ったも同然なのである。


  火あぶり作戦で敵を誘き出した後、それを操っているネクロマンサー達を殺した。

  私と他の第2部隊と第3部隊の2つの部隊は本部を叩きに大回りして霊山『魔恐山(まきょうざん)』へと向う。

 

  第4部隊と第5部隊は逃げるネクロマンサーを追うように指示を出した。

  結局は、私たちと行先は同じだからだ。


  険しい道を進みながら私達は前進した。

  2時間後、予想通り第4部隊と第5部隊の連中と合流してネクロマンサー共を挟み撃ちにして倒し、その後アジトに乗り込んで壊滅に至らしめた。


  少ない人数でよくやってくれたと思う。

  最後は、私の【ガーンデーヴァ】を用いた遠隔火炎魔法で全滅させた。

 

  私が率いた部隊の中で生き残った者は、全勢力の中のたったの4割。

  怪我をした者を含めるともっと多くなる。


  大失態だ。

  王様は心配ない、今回の戦争では仕方が無かったと宥めてくれたが、私は納得出来なかった。

  後に、この戦争はアクロポリス誕生後最悪な戦争の1つに数えられた。


  これにて、人類とネクロマンサーとの戦いは幕を閉じたのである。

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