もう一度
カテゴリー設定が難しいです。ホラーっぽく無いかもしれません。誤字脱字がございましたらすみません。
高橋はバイトを終えて家に帰る。帰り道で買ってきた食事を済ませ、大抵11時頃には眠りにつく。そして朝7時に起きて、特に変わらない仕事をこなし家に帰り、また眠り、朝起きる。それを繰り返して過ごしていた。
布団に入った高橋は目を閉じる。眠りに入る瞬間を感じながら意識を停止させる。しかしこの日は、珍しく12時を過ぎても眠りにつけない。時計を確認して再び目を閉じる。これを何度かしているうちに、気がつけば午前の1時を過ぎていた。
いよいよ眠れないな、と思った高橋は起き上がり、朝までの時間をどうしようか考え始める。空腹ではなかったが、夜食を食べたい衝動にかられた。小腹を満たそうと、コンビニに行くこと決め、着替えるのも面倒なので、スエットのままコートを羽織りコンビニへ向かう。
小さい弁当とパンを買い、コンビニを出た。すると、後ろから笑い声が聞こえた。深夜ではあるものの、近くには大学があるため、休日でも平日でも関係なく、駅周辺を賑やかにしている。学生が騒ぎながらコンビニに酒でも買いに来たのだろうと、家までの短い道のりを歩き始める。その日の夜は静かで風もなく、ただただ寒いだけだった。コンビニ袋を持つ手が冷たくかじかむ。
コンビニを出て数メートル歩いて気がつく。笑っている声は1人から発せられる声だと。笑いあって騒いでいるという最初の考えは間違いだったかと後方から聞こえてくる声に少し耳を傾けてみる。
都内の深夜だというそれだけで、酔っ払いの1人や2人いてもおかしくない。振り返ってみるほどのことでもないが、それはそれは楽しげで、高らかで、なんとなく気が引き寄せられた。
背後から聞こえるその声は、だんだんと大きくなる。コンビニを出てから20メートル。歩いている自分に近づいているのだ。ここから先はないもない。ただの住宅街。未だ笑っている。声からして男だ。
1人の男が笑ってコンビニにも寄らず自分の方へ向かって来ていることになる。ここで、笑っているという形容詞がついていると、なんとなく違和感がある。1人で歩いているなら散歩でもなんでも仮説ができる。しかし男は笑っている。笑いながら散歩する事はそう多くない。ゲラゲラと楽しげに笑っているのはどう考えてもおかしい。この辺りから高橋は恐怖心が芽生えて来た。後ろから近づいてくる男は変人なのではないかと。しかし、一つの仮説を思い着いた。電話だ。電話をしながら歩いているならば、誰にでもあるはず。しかし、高橋がコンビニを出てから数分ずっと笑っているのだ。そんなに面白いことがあるのか。
もし自分が女であったら深夜で他人が近づいて来ただけでも警戒心をもつに違いない。しかしながら、男である自分でも不可解な人物が後ろにいるだけでぐっと警戒し始める。彼が一人でずっと笑っているからだ。
都内に住むと、人口密度が高いだけあって電車に乗ったり街を歩いてみれば、不可解な人間に遭遇する事は意外にある。電車の中で楽譜を見ながら何かの芝居の練習を大声でしていたり、道を歩きながら怒号を飛ばしていたり。ビニール袋を頭にかぶっていたり。もちろん1人で。そんな人に遭遇してもおかしくはない。
笑い声と共に、足音が少し聞こえて来た。近くまで来ている。恐怖が湧きはじめ、関わりたくないと身構え後ろを振り返らずまっすぐ家に帰ろうとする。
するとその足音は近くまで来て金属の階段を上がる音に変わった。
家までの帰り道の途中にあるその駐輪場は二階建てになっていて、駅を利用する人々が通勤の時間になると忙しそうに人が出入りする。今の時間帯で利用する人は滅多にいないが、少し安堵する。
彼が笑っている事は置いておいて、彼の、深夜に歩いていることに意味が付け加えられたからだ。彼が変な人であるにせよ、自転車に乗ってどこかにいくという理由を持っているのだ。
そこでふと疑問が生まれた。二階建ての駐輪場の一階にも自転車を置くスペースがあり、そこにはほとんど自転車が置かれていなかった。
駐輪場を使うという事は、電車に乗ってどこかへ行くために自転車を置くはず。ほとんどの利用者は朝に家から自転車に乗ってこの駐輪場まで来て自転車を置き、電車に乗ってどこかへ行く。つまり深夜の今は電車で帰って来た人が自転車に乗って帰っているはずで、大抵の人はいま自転車は家にあるはずだ。
しかし彼は自転車を深夜に取りに来た。終電も無い今、駅はシャッターで閉じられている。
という事は彼は一体どこから来たのかという疑問が生まれる。家が近くにあれば家に自転車を置けばいい。
そこで一つの突飛な答えを見つける。彼は窃盗を試みているのではないか。
この人気のない時間帯、自転車を窃盗しようとしているのではないかと。明らかに突飛な発想だが、それ以外に高橋には理由づけができなかった。
自分から離れていった笑い声に少し緊張感がほぐれた。
二階に駆け上がった足音は笑い声とともに頭上をだんだんと追い越していく。
警戒していた対象が自分から離れたをいいことに二階の方をちらりと確認する。その瞬間彼の顔がこちらに向いていた。息を吸うのと同時に声とは言えない辺な音が喉でひゅっと鳴る。
高橋は目が合ってすぐにばっと視線を落とし歩き始めた。予期せぬ事態にぐっと緊張感で体が硬直し始める。なぜ彼は自分の方を向いていたのか。もはや笑っていることなどどうでもよくなってきていた。
やばいやつかもしれないという感覚が高橋の中で確信に近づいていた。
とはいえ、彼との距離は遠くなった。私と目があった後、彼も歩き出しているのが音だけではあるが、確認できた。
しかしまた緊張感につつまれる。その駐輪場は自分が向かう先にも降りる階段があることを思い出した。
自分が向かう先にある階段から降りてくると考えて、鉢合わせするのは避けたい。
歩調を落とし鉢合わせにならないようにする。
高橋がごちゃごちゃと考えている間に、ものすごいスピードでダンダンダンと足音が上をかけている。その足音は突然音程を変えた。カンカンと階段を降りる音に変わったのだ。
自分を追い越し階段を降りた後あいつが何をするわけでもないかもしれないが、そのまま走って去ってくれと願った。
高橋は目を合わせた恐怖からうつむきながらゆっくりとしたペースで歩く。
目線を下にしたが、視界の上の方に降りて来た彼をかすかにとらえた。
止まってる。そして多分こちらを向いている。何をしているんだと疑問がどんどん膨らんで来た。そもそも、昼ならなんてことないが今は深夜で通行人も車も全く通らない。そしてさらに疑問を作り出すヒントをまたしても、見つけてしまった。彼のその手には自転車がない。
自転車を持っていない。つまりかれはただ単に二階に登り降りて来た。何のために登ったんだ。自分が仮設した突拍子も無い窃盗よりも不可解だ。なぜなら、彼の行動に意味が見つけられないからだ。
二階建ての駐輪場のシステムはわからないが、どこに自転車を置いたのかわからなくなって探しているのか。それが一番しっくりくる回答だ。だが一向にあいつは一階の置き場に行かずその手前の歩道に突っ立ったまま笑っている。そうだ。忘れていたが、やつはずっと笑ってる。
普通の人が行動するであろう仮説をことごとく裏切った彼は高橋にとって、もはや恐怖の対象でしかなかった。
ゆっくりとしたペースで歩いていたがもうこれ以上近づいたら相手のことを気にしなければいけない距離に入ったため、前を向く。
やはり目が合った。
怖い怖すぎるずっと笑っている気持ち悪い
自分を見つめ歯を見せて高らかに笑っている
恐怖心がぐっと上がる
足をピタッと止める
あいつとの距離は3メートル
このまま歩いて行って何事もなくあいつを超える勇気はない
この歩道についている柵は、たった今から安全のためのものではなく恐ろしいものへ流されるレーンのように思えた。
あいつが向こうを向いて去っていけば御の字。あいつがこっちに向かってきたら次にすることはこの距離を詰められないようにすることが最適だと判断する。
こんな状況に合ったことがない。変質者を前にしてまずする事は凶器の有無。まずそこから確認することにした。
凶器は見える範囲にはない。
しかし白いパーカーを着て前のポケットに両手を入れている
そのポケットになにが入ってるかはわからない
男だがそこまで大きくはない男だ
少し茶色めのくせ毛
年は二十代くらいだろう
と一通り相手を観察した後顔を見る
やっぱり目が合う
見つめられている。笑っている。
怖すぎる気持ち悪すぎる。
あいつが動くその一瞬がくるのか、こちらも相手を見つめる。
弱肉強食の動物世界でしか見たことのなかったあの感じが今現在自分の身に起こっている。
見つめるとこちらも身動きがとれない。
猫同士、熊同士、あらゆる野生動物たちが警戒心をむき出しにして相手から目を離さずじっと背を低くするあの体制。目を離したら襲いかかってくるかもしれないというあの緊張感。たった今それを自分が行なっている。人間がこんな風に警戒するとはおかしな話で、人間も動物なのかとふと可笑しくなった。
身動きが取れない。
なぜなら前に彼がいるからだ。
横に逸れて離れて通過する。それも考えたが、自分からみて左から駐輪場、歩道、歩道の柵、道路、壁となっている。
そして次の瞬間恐れていた事が起こる。
彼を警戒して凝視していたから感じ取る事ができた。彼が動きだすその瞬間を捉える事ができた。
その感覚、彼の体の動き、速度からして走ろうとしている。
3メートル離れた自分を見つめながら笑っていた彼はこちらにめがけて走りだそうとしている。それを感じ取った瞬間自分も同じ速度で体を180度回転させ、思いっきり大きく足を踏み出し、逃げる事を選んだ。
『あっはははははははははは。』
笑い声が後ろから迫ってくる。もちろんこちらは全力疾走だ。そして、やつも同様だった。
これは一体何だ。何をしているんだ。
この状況のタチの悪いところは彼が笑っていることにある。ここに住んで二年目になるが、この地区の交番がどこにあるかを把握している。このまま交番まで行けばいい。しかし、やつは笑っているのだ。このまま交番の前まで行ったとして警察はなにかしてくれるだろうか。鬼ごっこをしている男二人が警察まで来ていたずらに助けてくださいと言ったところで、白い目で見られ、むしろ、捕まる可能性すらある。
そして深夜人通りは少ないが何人かはいる人に助けてーと言ったとして、後ろから追いかけてくる鬼が笑っていたらもはや目も合わせてくれない。
高橋自身、変な人としてレッテルを貼られているのだ。
バイトをして家に帰り寝て起きてを繰り返していた高橋には全速力での猛ダッシュは辛かった。だが、思った以上の恐怖からか、足は止まらずにいられた。
そして、ふと懐かしい気持ちになった。子供の頃、鬼から逃げた時、本当に捕まりたくなくて全力で走ったことを。なんとなく思い出した記憶の中の鬼も、白いパーカーだった。今、後ろをついてきてるあいつがそうだからかと、考えるが、たしかにあの時の鬼も白いパーカーだった。変な偶然だとか、懐かしいとか、考えてる暇なんて無いはずなのに、何故だか頭に浮かぶ。
住宅街を抜けて、開けた道に出たと思ったら、そこは河原だった。こんな所に川があったのかと高橋も驚く。未だ後ろ3メートルを奴はずっと笑って着いて来ていた。
そこで高橋の体力の限界が来る。
足が重く、前に進まないのだ。どうにも、息もできなくなって来た。年取ったな、運動も大事だと、呑気に思っていた。不思議と、奴が笑ってることが楽しく思える感覚になっていた。
『あははは。』
自分の口からも、笑い声が出ていた。だんだんと可笑しさが強くなりお腹が痛くなる。よじれるほど可笑しかった。こんな時間でこんなことしている自分に、笑いが止まらない。
そして、とうとう高橋は足を止めた。
すると後ろの奴も足が止まった。
『あはっ、はぁ、はぁ。』
肺を大量に膨らませて呼吸をしないと辛かった。
「お前、なんなんだよ。ふざけんなよ。」
笑いながら奴の顔を見る。
奴は笑っていた。ニッコニコの笑顔でこっちを見ていた。
「やっぱ、楽しいよな、鬼ごっこ。」
ああ、楽しいな。と痛い脇腹を抱えて高橋が答えようと顔を上げる。
あいつの姿はなかった。
太陽の光がだんだんと地平線を上がってきて、空が深い青から水色にかわりはじめた。今日は、親友の命日だった。
楽しく書くことができましたが、非常にヘンテコな文章ですね(´・ω・`;)すみません。読んでいただき、誠にありがとうございます。