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BBS―魔物に取り憑かれました。魔力全部喰われました。でも使役しました―  作者: 木村アキエル
二章一節 白雪は踏み荒らされ、やがて泥となる
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雪国より

オルケアトス領境。雪の降る極寒の地で、新たな事件は起きた――


「いや、まじで寒すぎて死ぬー」


近年稀に見る豪雪が視界を奪っている。神都オルケアトス郊外の検問所。レンガ造りの巨大な石の門と防壁に囲まれた堅牢な要塞のようにそびえ立っている。


歴代神王の庇護の元、物理的な防波堤の他に魔法障壁も展開されており、陸地だけではなく上空からの侵犯も受け付けない。世界数十ヶ国の中で唯一の完全中立国が誇る完全無欠の鉄壁である。


番兵として勤務するフロドは、分厚い毛皮のコートと帽子とブーツ。それに槍を携えて、琥珀色の酒を一口含んだ。喉から胃にかけて熱い液体が流れ落ちていく。


吐いた息が熱い。しかし寒い。全くどうなっているのだ。と、産まれながら馴染んでいるはずのこの天候にふざけるなと、ツバでも吐きつけたくなる。


共に検問を務める相方も同じ服を着込み、当人以外はどっちがフロドでどっちが相方なのか恐らく気付かない。それほどに分厚く着込んでいる。


毛皮のコートを隙間なくしっかりと着てはいるが、むき出しの顔面が冷たい。鼻先に至っては若干痺れてきている。

焚き火に辺りながら男達は、暖かいスープを飲んでいた。


フロドは、鼻をすすりながら言った。


「アドラスシアも災難だな。十年ちょっと前に大災害(クォヴァディス)があっただろ? その前にはクーデターで王族が丸々入れ替わったし、極めつけは一週間前の巨人? 呪われてるってあそこ」


ここ十年の間にアドラスシアにはいくつもの事件が起きた。それは、世界的にも類を見ない大事件ばかりである。中でも大災害(クォヴァディス)と巨人の件は恐らく超常的な力が働いたものであり、その矛先がすべてアドラスシアに向けられた事は、いたわしく思う反面心のどこかで安堵すらしていた。


「おい、滅多なことを言うなよ」フロドの相方が静かにたしなめる。あまり口数の多くない男も流石に今の発言は不謹慎だと思ったのか。


「すまんすまん。でも、あれだ。絶対あの男が原因だって」


フロドは体に積もった雪を払い落としながら半ばから返事気味で言った。


「あの男?」


「ほら、先日来た学生の中に居たろ、赤目で銀髪の……めちゃ可愛い金髪の女の子侍らせてた生意気そうなガキ」と、フロドは言った。


嫌に目を引く男であった。見た目は少し顔の整ったどこにでもいるような悪ガキなのだ。しかし、彼の渇望するようなギラギラとした眼光が、高い雪山の処女雪のような白銀の髪が頭から離れない。


彼から何を感じ取ったのかは、フロド自身全く分からないのだが、まるで悪いものに取り憑かれたかのようだった。彼を見たその日の夜は、身体にまとわりついた邪気のようなものを払い落とすため、酒と女に溺れた。足先から頭へと突き抜けるように身震いしたのは、寒さからなのだろうか。


相方がスープを一口啜り、喉に通すわずかな時間目蓋を閉じて、その少年を思い出そうとしているのか、それかただスープを深く味わっているのか分からないような素振りを見せる。


「ああ……あれは確かに不吉だったな。よくアドラスシアの学園側も入学を許したもんだな」


歴史に名高いアドラスシア魔法学園。そこに異端と見なされる者を招き入れるなど、聞いたことがない。いや、知らないだけで実際は徹底した実力至上の学園だったのかもしれない。


「紅の瞳は不吉の証ってのはよく言ったもんだ。嫌だねー、オルケアトスに厄介事の種を持ち込んだようなもんだろ」


「フロド、滅多なことを言うな。亡きディアナ聖下の最後のご勅命だ。アドラスシア魔法学園の人間を引き取るようにっていうのは」


「そうだな、まあサクサクと復興して帰って欲しいもんだな。サクサクサクサクそうそうこんな音みたい……に……?」


遠くで雪を踏み砕く子気味良い音が聞こえた。

それを自覚するのと同時に、フロドは心臓を掴まれたようなプレッシャーを感じた。それは、何らかの原因で群れをはぐれ、結界をすり抜けてきた弱い魔物を相手取っていたフロドにとっては、未知の圧力である。


というか、相手の圧力と言うものをここまで物理的に感じ取った事がない。なんだ。この思わず膝をついてしまいたくなる衝動は、許されるならば楽に死にたい。叶うならば遺言の一つでも残させてはくれまいか。

酒に酔い、女を壊れるほど抱いて死にたい。


フロドは手に持った酒を一気に食道へと流し込む。口から垂れた酒が凍って細い線を作った。


「おい、に、逃げるか?」


そう言ってフロドは相方を見た。しかし相方の首から上は既にこの世に存在していなかった。

心臓が口から飛び出しそうなほど暴れている。頭を内側から木槌で叩いているような痛みが襲う。


足音が近付いてくる。

やがて茂みの雪を払い落としながら姿を見せたのは、小さな少女であった。白く薄っぺらな肌着に近いワンピース。真っ白な髪、青い目。肌は色素異常を引き起こしたかのように真っ白で、雪に溶けてしまいそうであった。


「ヨ……ハン……マ……ハ」


その少女は二人の名前を呟きながらゆっくりとフロドに近付いてきた。

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