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BBS―魔物に取り憑かれました。魔力全部喰われました。でも使役しました―  作者: 木村アキエル
外伝 エピソード ヘンラー・リーブス『I never die.』
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I never die.


何をしたかったのだろう。どこで間違ったのだろう。僕は決定的な一つの選択肢を誤ってしまった。


「ララ……?」


腹部を貫かれた彼女の腰から、小さな手が生えているように見えた。子供がその手を引き抜くと同時に、ララは膝から崩れ落ちた。僕はユユを抱きしめたまま、この光景を見せないようにする事で精一杯だった。


横に立つ二人の大人が、子供に何か語りかけていた。子供はゆっくりと、まるであの子だけが違う時の中に生きているのかのようにゆっくりとうなずいた。

大気が森が空が大地が、全てが子供に恐怖するように震えた。自我の無い人形のようにカクカクとした動きで両手をこちらにかざした。それは悪意を持った為政者よりも、獲物を携えた剣闘士よりも、本能のままに牙を向く魔獣よりも恐ろしいものに思えた。


何せその子供からは何も感じられ無かったからである。何も無い、何も無いからこそ躊躇わない。これならば悪事を楽しむ悪魔の方がまだいくらか可愛らしいもののように思えてしまう。


全身から力が抜ける。そう。僕は既にララの事よりも本能的に己の身を守る事を選択したのだ。


ユユが僕の呪縛から逃れ、顔を出した。そこには膝を付いて動かないララが――母親が――映っているはずだ。この時の光景は今も彼女に深い傷跡を残しているのであろうか。僕はそれが少しでも癒されている事を願っている。


「まま!」

ユユが僕の腕をすり抜けて、ララの元へ駆け寄る。それが当然のように。無垢ゆえの勇気。あるいは蛮勇か。愚行か。しかし、僕にはそれが羨ましかった。

だめだ。そちらへ行ってはいけない。僕はユユに手を伸ばす。が、ユユは僕の指をすり抜けてララの元へ走っていった。


それと、同時に子供の身体から巨大な黒蛇のような、はたまたオーラのようなものが立ち上がった。それは、蛇と呼ぶには禍々しく、もっとも適切な言葉を当てはめるならば(オロチ)。龍の成れの果てとでも言うのだろうか。


鎌首を上げて睨みつけるそれに、ユユの足は止まり、腰は砕けていた。僕はすぐさまユユを乱暴に捕まえ、抱き寄せた。


「へびが……くろい……まま……」ユユは嗚咽混じりにどこか上の空な口調でひたすらと繰り返し呟いていた。


そして、黒いフードを被った子供はその(オロチ)を解き放った。僕は逃げ出そうとしたが、それよりも(オロチ)は早く力強く大顎を開けて迫った。


僕の背中を襲ったのは(オロチ)(あぎと)ではなく、別の衝撃だった。

その衝撃に吹き飛ばされて、痛みを堪えながら頭を上げると子供の場所から後ろ、ララが居た場所から僕の場所を残してそれ以外全方位が焼け野原に変わっていた。

ユユと年端も変わらぬような子供が、まさかこんな事を。僕は信じられなかった。全身が震えた。魔道兵器など比べ物にならない破壊であった。もはや、人為的なものと主張しても誰も信じないであろう。自然の脅威。大災害以外のなにものでもない。


子供は両端の二人に連れられ、背中を向けて残った森の中へ消えていった。


気が触れてしまった五歳の童女を抱えながら僕は、嘔吐(へど)と嗚咽と咆哮を口から吐き出していた……



数日後。僕はアドラスシア魔法学園の門を叩いた。

ユユが十八歳になるまで預けて貰えるように、学園長のオルランドに話をした。

学費も一括で払い、うわ言のように未だ呟くユユを引き渡した。

その時オルランドの目に僕らはどのように写っていたのだろう。親子のように見えたのだろうか。


とんでもない。僕はユユの父親ではない。ユユの母親を護ることが出来ず。混乱の内に失ってしまったのだ、そんな男がユユの父親を名乗っていいはずかない。それに、僕の顔を見る度に恐らくこの子はララを思い出すだろう。

そんな残酷な事を出来るはずがない。だから、僕はこの子の前から姿を消すことにした。


虚ろに俯き、頬もすっかりこけ落ちて、ふわふだった耳も今や毛羽立ち、生きた抜け殻のようになったユユを見つめながら、僕はいつか必ずあの(オロチ)を――(オロチ)を使わせた子供を――討伐しよう。そう心に誓った。


そうしてこそ、僕はララの後を追うことを許させるのだ。この身の罪を全て洗い流すための聖水はあの子供の鮮血のみだ。


奇しくも僕は、皮肉にも僕は、あの日から死の儀式としていた酒を断ち、この命の最後の一滴が流れ落ちてしまうまでは、何が何でも生き延びると。そう、強く思った。


僕は、死なない。


Black Brave Story

エピソード ヘンラー・リーブス

I never die.

~完~


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