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BBS―魔物に取り憑かれました。魔力全部喰われました。でも使役しました―  作者: 木村アキエル
一章最終節 この日。こうなる事を誰が予想していたのか?
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狂い咲く少女達


血反吐を塗りたくったような赤い空。まるで先ほどの悪夢が現実世界へと反転してきたようだった。

旧校舎は物の見事に破壊されており、前後左右伽藍堂(がらんどう)となっている。


死霊のようにわらわらと群がる黒い人影に、遠くで逃げ惑い叫声を上げる誰か。(はらわた)のむせ返るような臭いと、粉塵の臭いが鼻腔を狂わせてくる。


嫌になるほどの絶望感。

ユユも何故かマハに取り付く蛇を目撃して以来、俯き動かなくなった。


「圧される……っ!?」フェイドアは食いしばった歯の隙間から苦々しくそう零した。


今まともに動けるのは、フェイドアとキースのみである。下手をすれば夜の海(マク・サブル)よりも酷い状況で、しかしフェイドアとキースが動けるのは見方を変えれば幸いだったのだろう。


魔人と呼ばれる王国軍切っての実力者と、本物と呼ばれる魔法学園切っての天才。この二人ならば三人の少女を護りながら戦うのも難しくはない。


広域に魔法弾の精製と放出を同時進行で行う技法、スラッグショットをお互いが背中合わせになり、際限なく行う事で弾幕の壁を作る。


「よう、そんな所でじっとしてんなよ」


ふと、一人の気配がこの場に追加された。その者は紅蓮の炎を(まと)うような髪を(なび)かせ、小麦色の肌と胸元がいやに張り切った学生服。ただ、同年代には思えない。


「ディアナ様、なぜこちらへおわせられるので?」


キースは川のようにしなやかに流れる金髪を(ひるがえ)して、ディアナの方に向いた。


「ハゲが、そんな所で戦力固めてんなって言いに来たんだっての」

「ハ、ハゲ……!?」


ディアナは余裕の笑みで笑いながら、指を鳴らした。

すると、場面は一変。赤い絨毯(じゅうたん)と大きな本棚が所狭しと並べられている部屋へと移動していた。


突然の場面転換に反応しきれず、フェイドアもキースも部屋にスラッグショットを撃ち込んだ。

壁は破壊され、床はめくれ上がり、外観が存分に堪能出来るようになった。


「あ……」フェイドアは冷や汗を流した。


恐らく歴史的にも価値のある文献を何冊消し炭にしたのか、そんな事で頭が一杯になってしまった。

テーブルとソファー。何よりそこに眠るクロシェに被害が及ばなかったので、その点についてはほっと胸をなでおろした。


キースとフェイドアの間には動けないユユ。

目から血を流し(うずくま)るシグレ。

血と共に蛇を吐き出し、(あえ)ぐマハ。

事切れた人形のようにソファーで眠る中身のないクロシェ。

腕を組み不敵な笑みを浮かべるディアナ。

半生を使い集めに集めた文献の大半を燃え(かす)にされ、無表情で固まるオルランド。


「よし、見晴らしも良くなったな」


ディアナは大破した部屋の(ふち)に立ち、膝丈程の瓦礫(がれき)に片足を乗せて、腕を組んで外を見た。生温い風が彼女の豊かな髪を(あお)り、紅蓮に映える炎を思わせた。


「人の部屋だと思って……」


瑞々しい老人と言うべきオルランドは、その伸びた背筋をガクッと落として頭を抱えた。

フェイドアはその二人のやり取りに違和感を感じた。その正体は分からなかったが、思わずして彼は眉を寄せ、怪訝な表情でディアナの華奢な背中を見た。


「後で何とかするさ。それより現状の問題を解決しねぇとな」ディアナは言った。

その後ろ姿から顎をつまんで打開策を練っているようである。


低く余韻の残るような声で沈黙を打ち破ったのは、キース・ハワードの声であった。彼は片膝を立て頭を垂らしてこう言った。


「恐れながらディアナ様。この現状についてご説明頂いても?」


「オルランド」ディアナは背中越しにオルランドのなをよんだ。


オルランドはテーブルに置いてある水晶を掴みあげて、それをキースに差し出した。そのまま腕を反転させて手のひらを天井に向け、手を離す。すると水晶はひとりでに浮かび上がり発光した。


水晶の光は映像を切り出して見せた。

その映像に併せてオルランドが簡単な説明を付け加えていく。


「ご覧の通り。突如空が赤く染まり、人の形をした影が次々と飛来いたしました。絶対領域の守護石(クリスタル・グランデ)の防護壁も働かず、彼らは学園へと侵略。こちらも戦力を集めて抵抗はしておりますし、アドラスシア軍へ要請も出しましたが恐らく救援は間に合わないかと……」


夜の海(マク・サブル)での出来事と寸分違わぬその光景にフェイドアは息を飲んだ。鼓動は早鐘を打ち、指先は微かに熱を帯びている。

映像の中で見ず知らずの同胞が人影に裂かれた。赤黒い血液が画面一杯に拡がる。

顔をしかめ、一瞬視線を()らした。逸らした視線の先には呆然と映像を見上げるユユの横顔があった。

ふわりとした青い猫耳の少女は、マハの口から這い出している黒蛇を見た瞬間から、何かに取り憑かれたかのようにやつれていた。


天使の様だと思っていた金色の少女は、口から蛇を血反吐と共に吐き出し、つるりとした白磁の肌は裂けていた。天真爛漫だった表情は、決して表現出来ない。したくない。


この短時間で人はここまで変貌出来るものなのか。フェイドアは彼女らを見て底恐ろしいものを感じていた。

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