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BBS―魔物に取り憑かれました。魔力全部喰われました。でも使役しました―  作者: 木村アキエル
一章三節 否応なしに、彼等の苦難を蜜の如く啜る。
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再開



ヨハンはクロシェを見た。彼女は無表情で再び頷いた。

その瞬間、ヨハンは背筋に冷たいものを感じた。それはこれまでに培ってきた勘に近いものである。生存本能が大きな警鐘を鳴らした。

「屈め!」


クロシェの頭を掴み、マハを背負ったまま屈んだ。

屈みきったのとほぼ同時に、銀閃が頭上を走った。

その直線上にあった木々は鋭く斬られ、重力に逆らえず倒れていく。拓けた視界からはこの空と同じく鮮血に染め上げられた海が見えた。


天と地が混ざりあい、今立っている位置を見失ってしまいそうだ。地上にいるのか、天空にいるのか。

軌道線の向こうにはよく見知った顔がいた。


ユユ、フェイドア。キース。そして、膝をつき苦しげに(うずくま)るシグレの姿であった。

更に四人を取り囲むように黒く大きな人形の影が辺りを埋め尽くしている。


ヨハンとクロシェは駆け出した。


「なあ、クロシェ。あれはなんだ?」

「分からない。けど、いいものではない」

「そりゃ、俺にも分かるって。神獣(アギア)……眼球関係じゃないのか?」

「私が知る限りでは違う」


ヨハンはマハを背負ったまま腰から剣を引き抜く。

クロシェは何も無い空間に手を突っ込んで、大剣を一本引きずり出した。

クロシェは大剣を投擲する。鉄塊とも呼べる質量を影に突き刺す。手を振りあげ、ユユ達を攻撃しようとしていたそいつは、体内に深々と異物を受け入れて煙となって消えた。


「ヨハン! センセー!」遠くでユユが指揮棒をぶんぶんと振りながら叫んだ。


間髪入れずにクロシェは高く跳躍した。最高点へ到達した時、手を空へ掲げ槍を逆手に持って引きずり出す。そのまま一粒の隕石のごとく敵陣へその身をもって降り注いだ。


打点から放たれる衝撃波に敵味方よろめく。クロシェは砂浜に刺さった槍を引き抜いて一薙ぎ、しかし踏み込みが浅く敵に致命傷を与えることは出来なかった。


「センセー?」ユユは不思議そうに首を傾げる。


「ユユ、先生はちょっと今先生じゃねーんだ」


詳しい話は後にしよう。と、その話題を強引に断ち切った。

フェイドアは、魔法弾を際限なく精製放出を同時に全自動で行う技法。スラッグショットを用いて沖合いへ撃ち込み続けている。恐らく力を使いすぎているのか顔色も悪く、喋る余裕すらなさそうだ。

しかし、それを上回る量の人形がこちらへと歩いてきている。


「貴様――」キースが氷の刃を連想させる視線をヨハンに向けた。彼は、黒い砂粒を無理やり固めたような簡素な剣を持っていた。


「なんだよ」まるで切っ先を喉元に突きつけられているような感覚に、ヨハンも思わず身構える。


が、

「その娘を護りながら、近場の敵をやれるか? 一度撤退する」それだけ言うと、キースの剣は細やかな鉄粉になり砂浜に散った。


その代わりキースは赤々とした灼熱を手に纏い、それを沖合に向けね振り払った。

灼熱は握り拳代の玉になり飛んでいく。

着水の瞬間、眩しい閃光と熱波が一面に拡がり、肌を焼きそうな衝撃波に顔を思わず庇う。

人形も風に煽られ、身動きがとれないでいた。


そのすきを見てヨハンは剣で首を()ねた。

クロシェも大振りの槍で周囲を薙ぎ払う。


「走れ!」キースがシグレを肩に抱えて叫び、先導する。

砂浜を蹴り、駆け抜ける。僅かに足が沈む。走りにくい。

それでも、無理やり脚を回す。

影、一体一体の力は大した事がない。しかし、空から無限に降るその数と、死を恐れない行進がここにいる全員の気力を確実に削いでいった。


静かに息をしているマハを背負いながら、安物の剣で迎撃しつつ走るとは、なんと重労働な事か。

そも、固執する理由は無い。彼女の稀有な能力さえ奪ってしまえば、仮に奪えなかったとしてもなんら問題は無い。

命をとしてまで彼女を護る義理は己にあるのか?

無い。捨て置いて全力で戦ってしまえば楽で早いのではないか。

所詮行きずりの女だ……


「もうすぐです!」ユユが高い声で叫んだ。


ふと我に帰ると、転送陣(ポータル)は目前に迫っている。あともう少しと焦る脚。砂浜に取られてしまった。

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