やるべきか、やらざるべきか
「とは言ってもな……理不尽だ、非常に理不尽だ」
時間は流れ昼休み。食堂。
ビュッフェ形式で並べられる料理を、席に座り食べる。給仕が水を注いで回る。まるで高級ホテルの昼食会場だった。初めて来た時は面食らったが、数日もすれば順応するものである。
ヨハンは先程のマリアの言葉を思い出しながら呟いた。
向かいにはマハ。
その隣には青い猫耳少女がいた。丸くて青い目、しなやかに流れるストーレートの髪はそよ風か潮風のような爽やかさである。
それに対比するフワフワとした耳が、よく動き回り掴みどころのない彼女の性格を表している。
「でもでもー。参加しなくてもいいって言ってましたよね?じゃあユユは観客として楽しみます」
猫耳の少女。ユユは、ふわりとした見た目の印象をそのまま声に出したような喋り方をする。
ユユはえへへと、はにかむような笑い顔を作った。かと思えば、焼き魚を真剣に食べ始める。
ヨハンも彼女と同じ焼き魚を頬張り、二人して美味い美味いと言い合う。
周りの生徒も思い思いの食事で概ね満足そうな表情を浮かべていた。
ただ一人。向かいの少女マハは先程から、食事も気もそぞろと言った感じで、片手間にフォークを突き刺しては口に運ぶと言った事を繰り返している。
文字通りもう片方の手で何をしているのかと言うと、朝方マリアから急遽闘技大会の発表があった後、簡単なルールをプリントにして渡されていたので、それを金色に輝く瞳で険しく睨みつけている。
「マハー、お行儀が悪いですよ?」と、ユユが言った。
マハがハッとした表情で隣のユユに笑いかける。
「え?あぁ、うん。そうだね」そう言って二人視線をプリントに深く沈めた。
「マハは品行方正を地で行く人だったのに、学園に帰ってきてからすっかり変わっちゃいましたねー。男連れで帰った時は、先越されたーって思っちゃいましたよ」
「はは。色々あったからね」
「でも、ユユはマハが無事に帰ってきてくれただけで満足ですよ。ほんとに、もう会えないかと思ってましたから」
ユユが俯きながら、耳を垂らした。
マハはそんな彼女の頭に手を置き、優しく撫でる。
「うん。いっぱい心配かけたね」
「いっぱい心配しました。ヨハンとは何も無いって聞いて安心もしましたけどね」
「えぇ!?そこ?」
ヨハンは申しわけないと思いつつも、ころころと笑い合う女子二人の会話に半ば強引に入り込む形で問いかけた。
「なあ、マハ。さっきからずっと見てるけど、それ」
「え、ああ。これ?私も大会に出場しようかなーなんて」
ユユの食事の手が止まった。耳が鋭く天頂を指した。
ヨハンも猫耳であったならば、同じ反応をしたであろう。目を見開き「あははは」と、気まずそうに笑う彼女を見た。
「やっぱり、チャレンジしてみたいなーって思ってさ。ほら見て、三人一組で参加してバトルロイヤルの生き残り形式だってさ。これなら何とか勝ち残ったらいい成績残せるかなーって……遺跡探査もしたいなー……みたいな?」
プリントに顔を半分隠して目から上だけを覗かせてくる。
ヨハンは彼女の金色の瞳をまじまじと見つめた。
少し気まずさを感じたのか伏し目がちになってきてはいるが、それでも追いすがるようにこちらを見ている。
ヨハンは指で人数を数える。まず自分、そしてマハ。最後にユユを指して、マハに向かい無言で首を傾げて見せた。
プリント越しに彼女は小さく頷く。
「ユユ、残念。このメンツじゃ、どの道お前絶対必要だわ」
「そんなー」
「でもマハ。俺には、なんで自分から危険な所に行きたいのかが、よく分からねえ」
「それは……まあ。私も一応魔術師のはしくれだし、古代の英智が詰まっているかもしれない遺跡って言うのに興味があるのよ」
マハが頬を掻きながら、斜め上をみた。
ヨハンは小さくため息をつく。
それを見て諦めたのかユユも小さくため息をつく。
「ま、しゃーねーな」
「ははは。うん、ありがとう」