闘技大会
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「学園闘技大会ぃ?」
始業の時間ギリギリに教室へ滑り込んだヨハンとマハ。朝のホームルームに担当の教師から告げられた一言に思わず口をついて出た言葉である。
ヨハンの声に教諭のマリアが頷いた。
黒髪を後ろで縛り、清楚でいかにも教師然とした佇まいだ。
名家の令嬢からわざわざ学園教師となった変わり者で、その己が本来持つ華やかさを極限にまで抑制したストイックで健康的な美しさが、男子生徒からも人気が高い。
「そう。そして、大会の成績上位者には学園地下遺跡を調査する権利が与えられます」
その報酬にクラスが興奮にざわめき立つ。
なぜ、ここまで奮い立つのかが全くもって謎なのだが、隣のマハも目を輝かせ上気していた。
ヨハンは手を挙げてマリアへ問いかけた。
「先生。地下遺跡って結界で守ってるけど中に入ったら魔物が出るんだよな?」
「もちろん」
「そこの調査権利ってご褒美なのか? わざわざ危険な場所に踏み込む事になんの価値があるってんだ?」
ヨハンの問いにふと静まり返る教室内。
マリアも口を半開きにしてヨハンを見ていた。
中には嫌悪感を孕んだ視線を向けるものまでいた。
「おい、出来損ない転入生。地下遺跡の価値が分からないなら引っ込んどけよ。どうせキミが闘技大会に出ても魔法一つ使えず恥ずかしい思いするだけだし、気にするだけ無駄だっての」
ヨハンをからかう声が聞こえた。
教室の後ろ端に取り巻きと陣取るように腰掛けている赤髪サラサラヘアの男子生徒だ。
赤髪の男はまくし立てるように身を乗り出した。
「って言うか、ここ魔法学園。わかる? キミみたいな奴がなんで特例で入ってきたのかは分かんないけど、品位が下がるから早く退学でもしてくれよ」
「ちょっルドルフ! ヨハンはこの前の校外学習の時に、その……私と色々あって成り行きで……」
マハが立上り反論する。
「成り行きってなんだよ? じゃあ、マハ。キミの都合を立てて学園側が特例認めたってか? 僕みたいな最優秀生が認められるならまだしも、キミ何様だよ。特殊能力保有者だかなんだか知らないけど、回復補助しか能がない一般人は引っ込んどけって」
マハが唇を噛み締める。彼女は何かを言いたげに口を開閉させているが、
「マハ、無駄だって」ヨハンは小声でなだめた。
「いい加減にしなさい」
マリアが咳払いをした。
「と、に、か、く。嫌だろうが嬉しかろうが、決まったものは決まったんです。参加は自由なので参加したくない人はしなくてもいいです」
「マリア先生」そう言ってルドルフが手を挙げた。
「なに、ルドルフ君」
「その大会はいつ行われるんですか?」
「明日よ」
その言葉に一同一斉に驚愕する。クラス中の空気が浮き足立つ。ルドルフが席を立ち、
「ち、ちょっと待ってください先生。それはいくらなんでもイキナリすぎじゃ?」と言った。
しかし、マリアはそれに対して淡々とこう返答する。
「はいはい、静かに。ここは魔法学園です。卒業した後、皆さんがどのような進路につくかは先生、分かりませんが、国の軍や戦い関係を主に専門教育していく場です。実際現場では予告なく何かが必ず起きます。その事を常日頃想定していてください。これはそのための訓練です。以上」