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BBS―魔物に取り憑かれました。魔力全部喰われました。でも使役しました―  作者: 木村アキエル
一章三節 否応なしに、彼等の苦難を蜜の如く啜る。
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討滅戦直前



翌日。


「いいか、雑魚共!」



朝日が差し込む校庭には、自主練をする生徒や朝の校門の外に広がる森林地帯を散歩するのを日課とする生徒がちらほらと散見された。

そんな中、黒いコートに大量の勲章を下げた、腰まで届く金髪ロングヘアの男の怒声が響き渡った。


王国軍の魔法騎士団隊長『魔人』キース・ハワードである。魔人と言う通り名は、彼の強大な魔力に由来する比喩であり、人間の域を超えた人間という意味である。


昨日の一歩引いて様子を伺うような冷静な態度からは一変、激情を(あら)わにして目の前の兵士達へと発破(はっぱ)をかけていた。



「お前達はどうしようもなく中途半端な未完成品であり、粗悪品であり、消耗品だ。使い潰されるだけのな! そして、この星に人間は何人いると思う!? シグレ!」


キースが突如、質問を投げかける。

シグレと呼ばれた白い軍服を着たオッドアイの少女は、背筋を正してはっきりと答えた。


「分かりません!」


「分からないだと? 馬鹿が! 馬鹿は馬鹿なりに馬鹿のように戦って死ね!」


「はい!」


そして、キースが再び歩き出して次は青髪の猫耳少女の前に止まった。黒いブレザーに赤黒のタータンチェックのスカート。アドラスシア魔法学園の制服だ。


「七十億人だ、お前達はその中の一人でしかない! たかがお前達の命。どうという事はない! 土に埋められて野良犬に小便かけられてそれで終わりだ! そうなるのが悔しか!? え!? 悔しいか! ユユ!」


「はっひぃ!? くやしいですぅ!」


ユユはキースのイメージにそぐわぬ音声(おんじょう)と迫力に気圧され、肩をびくりとさせて答えた。


「じゃあ、どうする!」


「戦って勝ちますぅ! この名前刻んでから死んでやるですぅ!」


「その意気だ」


そんな光景を列の一番端に並んだヨハンは眺めていた。

隣の金髪少女、マハが口を真一文に閉じて真剣な表情で見ていた。若干どころではない緊張の色が見て取れたので、小さな声で耳打ちする。


「キースだっけ? ユユに話振るとか、あのオッサンも色々ポイント押さえてんな」


「はははっ、ユユもノリノリだね」


マハは顔の位置を動かさず微妙な笑顔を作って答えた。


「いいか! 今回の目的はなんだ!? フェイドア!」


神獣(アギア)討伐です」


「そうだ! それ以外の結果は誰も求めていない! 進むも地獄戻るも地獄だ! 同じ地獄なら最後の血の一滴が絞れなくなるまで戦え! 命を燃やせ! いいか、お前達がこれからする事は三つ! 覚悟を決めて、剣を取り、化物をぶち殺す! 覚えたか? 猿でも出来る簡単な仕事だ!」


「はい!」


フェイドアもユユも空気にあてられて、すっかり軍人のノリである。

キースがゆっくりとこちらへ向かってくる。そして、ヨハンの一歩手前、マハの目の前で止まった。


キースはマハの瞳を縫い付けるがごとく睨みつけ、先ほどとは少し違う重たい声で問いかけてきた。


「最後にマハ、お前の覚悟を聞かせろ」


そう言われ、彼女は静かに胸に手を当てた。深く取り込んだ空気に併せて胸が大きく膨らんだ。

ゆっくりと息を吐いた。ほんのわずかな黙想を得て、濡れた金色の瞳をゆっくりとキースの冷たい氷のような青い瞳に合わせた。


キースはただ彼女の返答を待っていた。


「……私は、この手が泥に塗れようと、血で汚れようと、胸に掲げた一本の剣とその祈りだけは常に高潔に、命の限りを尽くして戦い抜きます。(おの)が出生の時に課せられた使命の限り。初代神王フレデリカ・フィヨナ・ファレルと現六代目神王ディアナ・オルケアトスと我が祖国に誓って」



社交場で交わす美辞麗句のようだった。

だが、彼女から放たれた力強い言葉は、静かな湖面に一石投じて広がる波紋のように、その鈴の音のような声に乗って皆の耳に行き渡る。


「よし」キースは満足げに頷いた。

そして、彼はこちらを見た。


それだけで、踵を返し定位置に戻っていき、後ろ手で腕を組み、石像にでもなってしまっかのように沈黙した。



次に前に出てきたのは、紅蓮の炎を思わせる髪と瞳。露出度の高い褐色の肌、勝気で何を考えているのか見当もつかない表情で笑う、現人神(あらひとがみ)である。

兼任で学園の生徒会長でもある。


「まあ、皆思う事はそれぞれあるだろう。質問なら今受け付ける。戦いになって分からないじゃ困るからな」


「あの……」マハがおずおずと手を挙げた。


「どうした?」


「私とヨハンは転送陣(ポータル)夜の海(マク・サブル)とは全く別の場所へ転移していました。今回もそうなるのではと考えたのですが……」


「全く問題無い。私が責任をもって夜の海(マク・サブル)へ送り届けてやる」


「では、神王陛下は転送陣(ポータル)の原理をご理解していると?」フェイドアが色めき立ち、質問を重ねてきた。


しかし、それに対しての返答は「関係の無い質問はするな」という一言だけであった。



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