お墨付き共
長い話になると前置きをした後、ヨハンは一呼吸置いてゆっくりと語り出す。
「ちょうどマハが、課外学習に学園外に出た時だ。ユユと一緒の班だったらしいから、そこは分かるだろ?
そう。そして、列車事故が起きた。まさかそんな事が起きるなんて夢にも思わなかった。
神都オルケアトスに行く途中の列車で、ちょうど旧帝国領に差し掛かる手前の森林地帯だった。
突然、天地が逆転したみてーな衝撃が列車を丸ごと大破させた。
そこで、えーっと。俺は鉄筋に腹貫かれて地面に縫い付けられてて動けなかったんだ。そこに通りかかったのがマハだった。
単純にラッキーだった。普通なら即死でもおかしくないしな。それに加えてマハは回復魔法のエキスパートときた、自分の強運さに感謝だ。
その後、連絡手段も無く、マハの性格上見捨てたりも出来ずってな感じで少し行動を共にした。
俺の傷が完治しかけた時、問題が起きた。マハが魔物に取り憑かれていた事が発覚したんだ。
いわく、列車事故。その時から少しずつ体調を崩していってたらしい。
正直見るに堪えないレベルでみるみる衰弱していった……」
「もういい」ディアナがヨハンの言葉を無理やり遮った。
「え?」
「もういいと言ったんだ。ヨハン。見るに堪えないだ? あたしはそんな半分以上ウソで塗り固めた話の方が聞くに耐えないのだが?まあ――」
ディアナは脚を組み替えて、ヨハンを睨みつけた。
「――代わりに言ってやる。元々マハの身体にとり憑いた神獣をお前が自分の身体に移植した。そういう事だよ」
ヨハンは俯いた。その額に二つの視線を感じていた。一人はマハと、もう一人はユユである。
「お言葉ですがディアナ様」白い軍服の麗人、シグレが口を出す。
「シグレ、不敬だぞ」
キースの言葉をディアナは片手で制した。
「よい。続けろ」
「はっ。此度の件、神獣の事で我々はこちらへとやってまいりました。神獣は生きる天災、その姿形。生物の造形にあらず、異形と異常を兼ね備え、天変地異の極地だと私は教えられております」
シグレはベレー帽からはみ出した髪を直して再び口を開く。
「誠に光栄の極みではありますが、本来であれば、上官であるキースはともかく、私などをこのような場に呼ぶなど有り得ぬ事。元帥である、ヘンラー・リーブス。及び大軍師シリウス・タイラーこそが、この場に相応しいかと。ましていくら当事者と言えど、学園の生徒など……しかもそちらの銀髪赤目の男性にいたっては魔力の反応が余りにも薄い」
「ねえちょっと、言い過ぎじゃない?」
マハがくぐもった声でそう言って、シグレを睨みつけた。
するとシグレは「うっ」と少したじろぐ様子を見せる。
「わ、私は彼ら生徒を巻き込むのは反対だと言いたいのです!」
「シグレだっけ? あまり歳変わらないと思うけど?」ヨハンが更に横槍を入れた。
ヨハンは継いで、
「自分が少数派の選ばれた人間だと思ってるだろ? その歳で軍役とは畏れ入る。でもな、結局大人ぶっててもガキはガキ、本質の所は俺らと変わらねえのよ」
「……知っているような口を聞く」黒と真紅の瞳がヨハンを睨んだ。
「知ってんだよ」
ディアナが手を叩いた。
「はいはい、そのガキとガキの言い争いをさせに来たんじゃないんだよ。いいか? 神獣が現れたんだ、こんな狭い所で言い争っている場合じゃない。これは決定事項であって話し合いの場じゃない。お前達は神獣を見た事があるか? え? オルランド?」
「……いえ、これまで一度も」
見た目的には最年長であるオルランドは、ゆっくりとかぶりをふりそう答えた。
「そう。こいつですら見た事がないんだよ。現物を見て体験してるやつと、話だけ聞いて妄想膨らませてる奴。どっちが役にたつ? どの道短期決戦、前者一択。まして出現地帯は夜の海大人数で押し寄せれるような転送陣でもねえ。少数精鋭カチコミで決まりだ」
ディアナは机を強く叩いた。ガラス製の天板は粉々に砕け散り、その欠片が光を反射して煌めいた。
「安心しろ。ここにいる生徒達は強いし伸び代抜群。生徒会長のお墨付きだ」