真実を知る女
女は豪奢な毛皮のマントと燃え上がるような赤い髪を靡かせながら、こちらへと近付いてきた。
ヨハンよりも少し背が高い。
「なあ、一応確認はするんだが、ヨハン……だっけか? あたしのモノになろうって気は無いか?」
「は?」
そう言って赤い炎のような女は顔を近づけた。
ふわりと、ほのかに甘く爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。艶やかな唇と力強く突き刺すような視線。
彼女はヨハンのアゴに手を添えた。
「ちょっと待て!」
ヨハンは咄嗟にアゴに添えられた手を乱暴に掴み、背中を反らせた。
「なんだ?」女は一歩近づき「こっちがなんだ?」ヨハンは一歩下がる。
「確かにお前好みの女じゃないかもしれん」近づき「いやだから」下がる。
「そこの金髪がいいのは分かる。確かにたまらんよな。女のあたしでもそそるものがある」「……えーっと」
ヨハンは思わずマハをチラ見するが、彼女は何か言いた気なのにも関わらず、訴えかけるような視線だけ送って押し黙っている。
「だが、女としての魅力やその他もろもろは確実にあたしが上だと思うんだがな」「そう言う訳じゃなくて」
まさに一進一退の攻防を続けていたが遂にヨハンは壁にぶち当たる。
「マハとは色々訳ありで……」
「ああ、知ってるとも」
「え?」
ヨハンは呆けたような返事をした。赤髪の女性がイタズラに笑った。そして、顔を遠ざけて背中を向けた。
「あたしは、お前以上にお前の事を知ってるとも。その左手にとり憑いたやつの事も、マハとの関係も全部な」
「なっ!?」
「その辺で良いではないですか。ディアナ様」
学園長のオルランドは年の割に若々しい声でそう言った。
「ふっ。すまん。少し戯れが過ぎたな」
そう言ってディアナと呼ばれた赤髪の女は、マハの肩を軽く叩いて。
何かを囁くように耳元に口を近付けていた。するとマハの表情がみるみる動揺の色に染まる。
そして、そのまま更にまっすぐ、一同を一望できる場所まで歩きマントを髪を翻してこちらを見た。
「さて諸君。知っておろうが、改めて自己紹介をしておく、あたし……余がオルケアトス十三代目神王であり、このアドラスシア魔法学園の永久名誉生徒会長である。ディアナ・オルケアトスなるぞ」
フェイドアとユユが椅子から一度立ち上がり、マハとオルランドもその場で背筋を伸ばしてから傅いた。ヨハン以外。
「良い。顔を挙げよ。ヨハンお主には後ほど直々に話をくれてやるとして、此度の件そこのユユ・シルフウィードとフェイドア・シータから聞き及んだ。マハ・フィードルとヨハン・トレイルにも説明がてらあた……余が話をしてやろう。が、その前にまだ人が揃っていないのでな、皆楽にしていてくれ」
そう言って、ディアナはいの一番にソファーの上へどかっと深く腰掛けた。
それに習いフェイドアとユユが座り。マハとヨハンもソファーまで行って腰掛けた。