一人きり
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「そっか、こんな所でずっと一人ぼっちだったんだね」
マハがクリスタルの中で眠っている少女に声をかけた。当然ながら反応はない。
その横髪から覗くマハの表情は少し寂しげで、あと一つなにか言葉を付け足すとしたら。今にも消えてしまいそうだった。
思わず手を伸ばしそうになる。彼女へ。
今マハがクロシェにしているように優しく。
そして、彼女がクリスタルに触れた瞬間、クリスタルは淡く光出した。
ヨハンは驚愕に目を見開く。
クロシェが眠っていたクリスタル。マハがそれに触れた瞬間、淡い光と共に溶けていった。まるで氷のように。
透明な石の牢獄から解き放たれたクロシェは、糸の切れた人形のようにその場に倒れた。
「これって?」ヨハンが疑問をマハへ投げかける。
マハも目を見開きながらこちらを向き、ゆっくりとかぶりを振った。
「分からない」マハはそう言いながらクロシェに触れた。一瞬だけ指先をピクリと驚かせ「けど」優しく首筋に手を回し、クロシェの上半身を持ち上げながら「暖かい」と、呟いた。
「生きてるのか?」ヨハンは問いかける。
マハはその問に対して、歯切れ悪くこう言った。
「呼吸も脈もない。けど温もりと魔力の循環は感じれる。これを生きてるって言えるのかどうかは分からないけど……」
その伏せた瞼から伸びるまつ毛がやけに印象的であった。
「そうか」ヨハンはそう頷いて、クロシェを背中に担いだ。
「とりあえず出口探さなきゃな。転送陣無いの不便だわ。古代技術様々だな」
マハが「うん」と短く返事をして、クロシェが抱えていた剣を重そうに拾い上げた。
マハは重さに絶えかねて、懐から羽ペンを取り出し、空中に円を描く。すると、虚空に穴ができてマハがはその穴に大剣を突き刺した。
剣はするすると虚空に収納されていき、柄の先端まで差し込むと、虚空の口はゆっくりと閉じた。
それくらい経った頃、マハが思い出したように尋ねる。
「って。ちょっと待ってよ、さっきの人形とかと鉢合わせたらどうするの?」
「ああ、そうだな――もう、見つかったみてーだ」
そう言ってヨハンは前方を指さした
先ほどの鉄製の人形が入口を埋め尽くすように複数体現れた。
鈍色に光る身体。節々は茶色く錆びつき、直立不動の姿勢。首から上に顔のパーツは無く、真ん中にある発光体が一つ目のように輝いている。
人形の一体が顔の光を強めた。
攻撃が来る。そう思った次の瞬間、ヨハン達は赤い絨毯の上に尻餅を付いていた。
「いたっ」マハが思わず叫び、尻を撫でる。
大きな部屋であった。
そこには、壁一面の本棚と来客用のテーブル。そして、奥に大きな窓と事務机。
来客用テーブルには驚きこちらを見つめる二人の生徒とあと二人。一人は青髪の猫耳少女でもう一人はいけ好かない爽やかな茶髪青年。二人は柄にもなく、肩を持ち上げ、かなり強ばった様子である。
残りの二人は若々しい老紳士と、露出度が高い褐色の赤髪の女性であった。
「よっ」赤髪の女性は気さくにこちらへ手を挙げて挨拶してきた。