星の生命体
*
ヨハンは肩を一瞬だけびく付かせた。
「ん?どしたの?」とマハが尋ねる。
「いや、なんだろか。寒気?」
そう言ってヨハンは腕を組んで肩をこわばらせた。
クロシェが首を傾げる。
「無事? ディア」
あれから、色々な景色に場面転換してその全てを三人で過ごした。魔物討伐や森林探索。
今の現状が、何を目的としているのか全くもって意図が掴めない。
クロシェは相変わらず、ヨハンの事をディアという人物と勘違いしており、それはヨハンがいくら言っても全く改善されなかった。
なので、
「ん、ああ。大丈夫だ。それよりクロシェ、ここは?」今の彼はクロシェにとってディアなのだ。
「ラボ」
と短く彼女は答えた。
周りは鉄で出来た様々な設備があった。一体何に使うのか、薄いノートのような物に表示されている言葉は何を意味しているのか。
クロシェはそんな部屋の真ん中にある椅子にこしかけた。
向かいには水槽が置いてあり、その中で小さな球体の何かが鼓動していた。
クロシェはそれをじっと見詰めている。そして時折ノートに何かを書き込んでいる。
恐らく経過観察なのであろう。
そう思い黙って見ていると、マハがおもむろにクロシェの隣まで歩き、声をかけた。
「ねえ。クロシェ、これは?」
「星から作った」
「えーっと、それってどういう」
「少しだけ借りて命を吹き込んだ。星のエネルギーを」
「ははは、なるほど……」
水槽の反射から見えるマハは、笑みを浮かべて頬を人差し指で掻いていた。
ヨハンはその光景を腕組みしながら眺めていた。絶対に分かっていないな。そう思いながら。
「アギア」
「え?」
「ディアが名付けた。アギア」
アギアと、マハは名前を反芻し、水槽をじっと見つめていた。何故か学園の服を着ているクロシェとマハは、隣りたって一つの物を観察する姿が友人同士のように見えた。
「この子は生まれてどれくらい経つの?」
「一ヶ月」
「へぇー、まだ赤ちゃんだね」
髪が揺れて向かい合い、そしてまた水槽へと顔を移す。
突如、赤い光が点滅し部屋全体を警告色に染め上げる。
けたたましい音がなり、地響きがした。
いつの間にか水槽は破壊されており、その中にいたアギアも姿を消していた。
ラボの壁や、先ほどまで整えられていた書類などは散乱していた。
「なんだ!?」ヨハンはバランスを上手く整えながら、辺りを見回した。
マハは突然の事に尻餅をついていた。
クロシェは直立不動で割れた水槽を見つめていた。
「マハ大丈夫か?」
「うん、また場面転換みたいだね」
クロシェは無言で再び歩き出した。扉に手をかけて、その先の廊下へ。