続・異常事態
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「ホント同感ですぅー!」
一方その頃ユユ達は走っていた。
ヨハン達が夜の海に来れていないという異常事態が発生し、マリアの指示によって即引き返す運びとなったが、回空魚の群れが出現し一時避難する事になった。
フォロル。学術名、回空魚。その名の通り、空を泳ぐ魚である。特徴と云えば大きく発達した前アゴ。群れを作り行動すること。凶暴性。主食は虫だが、肉もお構いなく食べる雑食性。
圧縮させた水を口から飛ばす遠距離攻撃、などである。
とは言っても、そこまで脅威になり得る存在ではなく、人間の回空魚による死亡事故も殆ど無い。
と、マリア教諭からは事前に伺っていた。
のだが、今回は何かが違っていた。
まず、群れの量からして明らかに異常。何十匹と大所帯を成して、襲いかかってきたのである。
「ひぇぇえ!センセーのウソツキー!!」
ユユは可愛らしい叫び声をあげながら、指揮棒の杖をぶんぶんと振り回し、綺麗なストロークで疾走する。その速度たるやフェイドアとマリアを後方に大きく引き離す勢いである。
しかし、このままでは拉致があかない。
フェイドアとマリアが逃げながら魔法を放っている。徐々にしかし確実に数を減らしてはいる。
ユユはブレーキを掛けて振り返った。柔らかい砂浜に彼女の轍が深く刻まれた。
指揮棒の先端に翡翠の光を灯して、魔法陣を描く。
「えと、えっと。弾数は……」
魔法陣。素人の目から見れば一つ一つに何の違いがあるのか分からない。しかし、そこには緻密な数式と呪文が描かれており、出力や射出速度など微細化された情報が書き込まれている。
その翡翠の煌めきが常夜の海辺に尾を引いて踊っていた。
夜釣りというものがある。
一般的に魚の目は、暗い環境に適応しており。活動しているときは、瞳孔が全開した状態になっている。陸地よりも海の方が圧倒的に暗いことに起因している。
これは魚の魔物、夜の海に生息する回空魚とて例外ではない。だから人間よりも光に敏感なのだ。
これらの魚は、食物連鎖の関係上光に集まりやすいと言う修正を持つ。
集魚灯を付けると、まず虫が集まる。そこを回空魚達は餌場とするのだ。
つまり、光そのものが好きなのではなくて、光が当たる場所にエサになる生き物が集まってくるので、それを食べに魚は明確な攻撃の姿勢をもって寄って来る。そう、つまり――
「ユユ!避けなさい!」マリアが叫ぶ。
回空魚が遠くから、水鉄砲を射出。
さらに全ての回空魚がユユ目掛けて猛進してきた。
――魚は光に反応しやすいのだ。
「うっひぃぃ!」
彼女のキャラそのものが崩壊しかねない叫び声で、ユユは間一髪回避に成功。彼女の猫耳が鋭く天を指し、総毛立つ。
遠くでフェイドアが「おお!」と何か閃いたようだ。
「ユユ!その杖に光灯したまま走り回ってくれ!」
「ふっざけんなボケェェェ――!!」ユユ渾身の咆哮は夜の小波に攫われていった。